鍼灸師として、コロナ禍にあって一番印象的なのは、予測される原因より、もっとひどい痛みを訴えられる方が多い、ということでした。この程度の発痛原因と思えるものが、患者さんご本人には、激痛に感じられる、という落差です。
もちろん、痛みはご本人にしかわからない苦痛です。でも、原因が、例えば軽い筋肉の痙攣であっても、それが「死んでしまいたいほどの」激痛に感じられる。そういう方が、とても多く来院される。コロナ禍以前は、これほど多くはなかったことに思えます。
医師の友人と話をしたのですが、この2年くらい、不安を日常的に感じていらっしゃる方が多く、その状態で、精一杯生活していらっしゃる。そこに何かの「痛み」が追加されると、痛みの症状が、洪水のように一気に押し寄せる。そんな患者さんが多い、と。
こころが精一杯であるところに、何かが起こる。その何かは、そんなに大きなものではない。ささやかなほど小さなトリガーが、こころの瓶いっぱいに溜まっている不安の水を、溢れさせる。
どんなものでも、不安を感じると、身体は縮こまります。身体を縮めて生活していると、筋肉は恒常的に拘縮します。特に主要な関節の回り、頚や肩、腰などに顕著に「コリ」が現れます。
コリは、身体の不快感を引き起こし、その不快感は、こころの不安感を煽り立て、通常であれば「さほどではない」痛みが、普段とは違うレベルの「激しいもの」に感じられるのです。そして、これは自分の意識ではコントロールできない症状です。
でも、これは逆に言えば、筋肉の拘縮を開放すれば、逆回転の好循環が起こるのです。
今感じている激痛に対して、細やかに聞こえるかもしれなませんが、重篤な病因を探る前に、コリを取るということは、やってみる価値がある処置だと思います。