鍼や灸を使えば「東洋医学」なのでしょうか

身体へのヒント

は細い金属の棒、灸は雑草の加工品。

日本で医療に関する一切の権限を持っている資格者:医師=ドクターなら、すぐに取り扱える「道具」にすぎません。では医師が鍼や灸を使えば、それは東洋医学となるのでしょうか?

そうはなりません。「日本製の MRI を使えば日本医学」とならないのと同じです。道具は、しょせん道具です。

何を行えば「東洋医学」となるのでしょうか。

一般に医療行為は、[診察][診断][施術]の3つのステップに分かれます。
まず西洋医学の手順をみてみましょう。

診察
患者さんのお話を伺い(問診、医療面接)、血液検査やレントゲンやMRIを撮影したりして、体の中で何が起こっているのかを把握します。

診断
診察の結果、患者さんが「なんという名前の」病気なのかを決定します。健康保険との関係もあって、医師は、患者さんの病態に対して「ひとつの名前」を決めなければなりません。

施術
選んだ名前の病気には、各専門学会が定める標準的な対策法が定められており、医師はそれを施術します。

もし西洋医が鍼や灸を使うとすると、「施術」なかで使われるわけですが、その方針を決める「診察」や「診断」は西洋式です。この場合、東洋式の道具を使うからといって、東洋医学とは言えません。

漢方薬も、医師の処方で出されたものは「東洋医学」ではありません。

最後に処方される薬が「葛根湯」や「桂枝加芍薬湯」であったとしても、「診察」や「診断」が西洋式であれば、それは、厳密にいえば東洋医学とはいいがたいのです。
(このような方法では効果がない、といっているわけではありません。)

つまり「東洋医学」とは、診察・診断・施術のすべてが東洋医学的な考えに立っているものをいうわけです。

最近では、西洋医学の世界でも東洋医学的なメリットを生かそうという気風があり、がんセンターや国立大学付属病院などでは、鍼灸師が医療スタッフの一員として仕事をするケースも増えてきています。

これは、西洋医師が癌を鍼で治そうと考えてのこと、というのではありません。

痛みを減じる・抗がん剤の副作用を抑えるといった目的で、東洋医学が使われています。鎮痛剤以外で痛みが押さえられれば患者さんのQOLは高まりますし、副作用が押さえられれば抗がん剤の効果がより期待できる、というわけです。