そういわれてはっとした、という医師のエッセーを読んだことがある。一度にに多数の患者さんを相手にする医師であれば、各人の固有名をいちいち把握するのは面倒ではあるし、あまり意味も感じないのかもしれない。しかし、その方は「脊椎管狭窄症の患者さん」ではなく「脊柱管狭窄症に苦しんでいらっしゃる鈴木さん」なのである。
その差は、観念的なのかもしれない。しかし我々東洋医学の徒は知っている。教科書に載っている典型化された、一般化された「脊椎管狭窄症の患者さん」などいないことを。いるのは「鈴木さん固有の脊柱管狭窄症に苦しんでいらっしゃる、鈴木さん」なのである。
つまりは、一般化された脊柱管狭窄症の治療法では「脊柱管狭窄症に苦しんでいらっしゃる鈴木さん」の治療には、役には立たないのである。