いつから「美味しい物」だけを口にするようになったのだろう

身体へのヒント

煮出した漢方薬が「どろどろしていて」「すごくへんな味で」飲むのが辛い、とおっしゃる。確かに、漢方薬は大変複雑な匂いと、味がする。日常的な食べ物の味や匂いで表現するのが難しい。

ときどき昔の野菜を思い出す。ピーマンも人参もえぐみが強く、子供が食べられない代表的な野菜だった。七草粥も、軽い拷問のような感じがした。子供は味覚が発達していないから、こういうものの良さが理解できないのだ、と大人はいったが、本当にうまいと思っていたのだろうか。鮎のワタの味とは違うのではないか。

うちの猫は、野草を食べるのが大好きである。毛玉を吐き出すため、と説明されるが、吐瀉物にあまり毛玉はみられない。うちのは、どちらかというと短毛種である。あれは何のために、食べているのだろうか。「吐く」という行為を味わいたいのだろうか。胃から食物を逆流させるという行為は、本能的に、何かを満足させるのだろうか。

思えば、いつの間にか、トマトはフルーツのように甘くなり、オブラートに包んでやっと飲んでいた薬は、薬品メーカーの企業努力で、キャンディのような糖衣に包まれて供されるようになった。

食べ物以外のものを、味覚を味わう対象ではないものを、生存のために口にするという行為は、必要ないものになったのだろうか。よくわからない。