「正しい姿勢」というのは、神話に過ぎない

エッセー

「正しい姿勢」「理想的な姿勢」とは、簡単に言うと「耳・肩・腰・膝・くるぶし」が一直線になる状態をいう、とされています。「正しい姿勢」を取らないと「筋肉のバランスが徐々に悪くなっていき、肩こりや腰痛を引き起こしたりする」と説明されます。

本当なのでしょうか。

良い姿勢の人は、美しいですし、きちっとして見えます。どうせ生きるなら、美しく生きたい、身を律して生きていたい、という気持ちは、よく理解できます。

しかしこれは、姿勢が発痛因子になるという問題とは別の、あえて言うのなら「美容」の問題です。痛みなどの不具合がない状態を「健康」と呼ぶのなら、両者は簡単に一致するものではないと思います。

もちろん「奇形」とまでいえるほどに、姿勢が歪んだ状態では、筋肉や関節などの運動機能は正常に働かないでしょうし、内臓も不自然な圧迫を受けて、様々な弊害も起こるでしょう。

でも例えば「ねこ背」「ねこ首」といわれる程度の歪みが、『重度の』肩こりや、腰痛を生むものなのでしょうか。これを、矯正する必要があるのでしょうか。矯正すれば、身体的な苦痛から解放されるのでしょうか。

姿勢というのは、人種ごとの文化や、生活習慣にも大きく依存します。縄文時代の人や、そこまで古くなくても明治時代の人の骨格は「現代文明の悪弊を受ける前」であるから、正しい姿勢だったのでしょうか。そんなことはないでしょう。生きるためには、獲物を追ったり、暗い電燈の下で長時間縫物をしたり、そうやって人生を生きてきたはずです。

現代のように、PCやスマホを使うことが、生活上の必須条件となったとき、人体は、自身の機能を、それを使いやすいように対応するでしょう。そのような「対応過程」をどれだけ短くできるか。それが本来の「整体」と呼ぶべき作業と思えます。

世の中には「正しい姿勢」ではないのに、肩こりにも腰痛にも悩まされない人がたくさんいます。なぜなのでしょうか。その方たちは、その状態でも身体機能を維持できるような、生理反応を実現しているのではないでしょうか。

だとしたら、このようなことに時間とエネルギーを使うのは、あまり賢明なことではないように考えます。
現実に生きていくうえで、生活に問題がない身体状態を維持する、というのが現実的な落としどころなのではないでしょうか。

それをもっとシンプルな言い方でいうと「血行を良くする」ということになると思います。東洋医学的には「気のめぐりを正しくする」と言いたいところですが。