病院や治療院の最大の特徴は、そこが病人だけが「客」として集まる場であることだと思う。
ところで、病気の寛解にとってとても重要な要素は、「自分が病人である」と意識しないことなのではないか、と思う。それには、病人の周りに、病人や医療関係者が満ちていない方がよい。できるだけ早く、病院や治療院から離れるのがよい。
もし病院のなかで、用もない人がぶらりと散歩に杖を曳いたり、壁際のベンチで初々しいカップルが恋を語っていたり、若い家族が弁当を広げたりしたら、なんだか治療効果に影響を与える気がする。
残念ながら、現代の病院は、治療作業を合理的に進めるよう設計されている。
であるなら、小説や、映画や、ドラマや、アニメで、「いま自分がいる場所」「いま自分が置かれたシチュエーション」の意識を、頭の中心から端へとずらせてあげたい。
体がかなうなら、散歩もよい。街の営みを覗きながら、そこに鉄道の運転手として生活する自分を想像し、今の自分の「本当の姿」を忘れることができる。
病気の治療にとって、日常を過ごすいちばん幸いな状態は、「自分が病人であること」を忘れていられる時間を、できるだけ長くすることだと思う。