雑感 241021

Staff Blog

探偵という言葉を久しぶりに聞いた。で、思い出したことがある。

編集者時代、エンターテインメント系新書の担当になった。

かつては少しは売れたけど、今は商品性がない (と思われる) 作家から預かった原稿が、編集部には山のようにあり、それらは、読まずに突き返すわけにはいかないので、誰かが読む必要があり、その誰かが、新人の最初の仕事だった。

で、来る日も来る日も「探偵小説」を読まされる。先生のかつての全盛期、探偵小説がエンターテインメントの王道だったから、今でもその路線の新作が書かれるらしかった。

そもそも探偵小説を読んだことがなかった私には、どれを読んでも、同じ内容に思える。
「失踪した誰かを探す話」か「素行不良の人間の正体を追う話」のどちらかで、探偵は、人生に疲れた、酒と煙草にまみれた中年男だった。編集長にそれを問うと、そのテーマを追うのが、探偵小説なのだ、とのことだった。

なるほど、探偵小説を読んでいないわけがわかった。私にとって探偵とは、薬師丸ひろ子とイメージの混交を起こしている松田優作であり。あとはシャーロックホームズ。つまりは、このジャンルの仕事に向いているとは思えない。

で、編集長に、どれも魅力を感じませんと報告すると、じゃあ原稿を返してきて、という。返すのはいいが、返す理由を言わねばならない。つまらなかった、ではさすがに「仕事」ではないので、作品の長所を無理に探し、数多ある欠点を穏便に説明し、それを納得してもらわなくてはならない。

あいては、ベテラン作家、こっちは新卒の新入社員である。いろいろな汗をかく仕事であった。先生は、その原稿を、どうしても金に換えたいのだ。

そのとき、なんだか「落ちていく人」というのを、初めて、具体的にみた気がしたのだった。失礼な話だが。