#97 番外編:生物学的な男女…オスとメス…の違い

nishi01

昔、大学院生のころに、学部生向けの教養講義にもぐり込んで、生物学的なオスとメスの違いについて、なんていうオムニバス講義を聴講したことがあった。

例えば、魚なんかでは、わりと性別の転換をすることがあって、メスだった個体のうち、一番大きな個体がオスに転換する、なんてことがあるらしい。魚の種類によっては、そこから再びメスに戻れる場合もあるが、オスになってしまうと戻れない種類もあって、こういうところでうっかりオスになったは良いが、より大きな個体のオスがやってくると肩身の狭い思いをしていたりする…らしい。まあ擬人法ではあるのだけれど。https://www.museum.kyushu-u.ac.jp/publications/annual_exhibitions/WATERS2003/B21ohta.html

魚の種類によっては卵は産みっぱなし、だったりするのだけれど、タツノオトシゴはたとえば、オスが腹の中で卵の孵化をさせる。別の魚では、オスが口の中で卵を育てる、という生態があったりする。孵化させるまで、オスは食事ができない、っていう、けっこう過酷な環境…かとおもいきや、時々この卵を、オスはペロッと食べてしまうらしい。研究者によると、交配の相手が「顔見知り」の時は食べることが少ないけれど、「別の群れのメス」が産卵した場合とか、孵化のための絶食が続いた場合などに食べている、っていうことで、やっぱり親しい人の卵はすこし遠慮する、なんていう話も聞いた。これも微妙に人間味がある。https://aquarium.co.jp/diary/2022/09/60389

爬虫類の中には、生まれてくる時の性別が、孵化する卵の温度によって決定される、なんていうこともあるらしいhttps://news.1242.com/article/140495 。私は学術の話より先に上橋菜穂子氏の『獣の奏者』という物語で性別決定の話を読んで、そんなことが…と物語設定かとおもっていたら、リアルにそういうことがあると知ってちょっとびっくりした覚えがある。上橋さん、けっこう真面目に取材されているのね。

残念ながら、脊椎動物の中で、大人になってから?性転換が可能なのは、魚くらいまで、なんだろうと思う。両生類も、爬虫類も、まして鳥類や哺乳類は、なかなかそういうわけにはいかない。どうしてかっていうと、たぶん、身体の構造がだいぶ変わってしまっているから、ってことになるんだろうと思う。

ホタテなんかを食べると、貝柱の横にたまご?みたいなのがついている。これには色が二種類くらいあって、たぶんオスとメスの違いがあるんだろうと思う。このくらいの違いなら、言ってみたら精巣と卵巣を切り替える、ということだけで性転換ができる。魚もわりと小さい卵を体外に放出して、そこで受精するから、構造としては、オスとメスの構造を共有できるのだろう。

どうしても体内で子どもを育てる系のシステムになると、切り替えるのが大変になってくる。っていうか、どうやってそんな新しいシステムを自分の中に作り出すことができるんだろうか…?って思うのだけれど、そういえば、イモリなんかは、とっても再生能力が高い。目玉が損傷しても再生してくるっていうことで、ヒトの網膜や眼球の再生に応用できないか、って研究はされている。

どうやら、再生を試みる、というところはそれなりに上手くいきそう…?なのかもしれないのだけれど、問題は「再生を始めた部分がそれよりもどんどん増えていく」というポイントであって、つまり、癌化しないか、ってところが懸念点らしい。iPS細胞による再生医療の臨床への応用があまり進まないところは、やっぱりこの「生着した細胞が癌にならないか」っていうところのハードルが一番高いみたいな気がする。

つまり、ヒトの身体の中では、分化した細胞が暴れ始めて、どんどん増えていく、ということを制限している、っていうのが、優先されているのかもしれない。あちこちに怪我する…っていうのは、怪我しないで過ごすようになっていくことで防ぐことができるけれど、自分の身体の中で怪我した場合にはどんどん再生していく、って話になると、複雑な構造を維持できなくなるのだろう。

癌っていうのは、もちろん、どんどん増殖されると私たち宿主は死んでしまうから、いろいろ頑張ってそれを治療しようとするのだけれど、局所の話で言うなら、劣悪な環境であっても、なんとか生き延びて、増殖する、という「生きることにかけて特化した」細胞だといえるのかもしれない。生きることに特化した結果、個体とともに死んでいく、っていうのは、とっても皮肉なところだけれど。

さて。生物学的なオスとメスの違いっていうのを、改めて考えてみる。

何が違うかっていうと、配偶子の話になるわけで、片方を卵子、片方を精子って呼んでいる。もともとはあまり性差がないまま、二つの配偶子がくっついて、また個体を発生させていたんだろうと思うのだけれど、(単細胞生物の中には、2つの個体がくっついて、4つに増える、という形の生殖をするものがあったはず)交配とその後の発生に必要な栄養を、配偶子のどちらかが確保できているなら、その相手は、必ずしも栄養を抱えている必要はない、ってことになる。お互いがランダムに動くよりは、動く配偶子と、待っている配偶子、ってした方が出会う確率は高くなる、のかもしれない。

っていうことを突き詰めると、ほとんど遺伝情報「のみ」に身軽になって動き回る精子と、栄養をしっかり蓄えてどっしり待っている卵子、という組合せになるのは、まあ、ごくごく普通の話なのかもしれない。さすがに卵子が動くのは自分の栄養を消耗するでしょうし、効率的とは言えないから、ねえ。

そして、これらの配偶子の生存戦略も変わってくる。卵子の方はそれなりの栄養を詰めるためには、数が減るから、どうしても良い精子を「選ぶ」ことが大事になってくるし、逆に精子の方は「数打ちゃ当たる」的な戦略をとることになる。

だから、生物的な立て付けが、やっぱり違う、ってことになる。

解剖学的な話でいうと、ヒトの女性には子宮や卵巣がある、って話をするのだけれど、もう一つ特徴的な違いがあって。子宮は、卵管の部分で、腹腔内に開いている。つまり、女性の身体は、腟から子宮、卵管を経由して、腹腔内が、外界と連続する空間になっている。

男性の場合は、そのような空間が無い。

これはとっても大きな違いなんだろうと思う。なので、骨盤腹膜炎っていうのは、女性にみられる疾患(病原体が腟から子宮を経由して腹腔内にたどり着く)である一方で、男性にはそういうことが「ない」

もちろん、どこかの臓器の炎症がひどくなって、境目の膜が破綻(虫垂が破裂したとか、胃に穴があいたとか)すれば、男性であっても、炎症が腹腔内にたどり着く、ということはあるけれど、女性の場合はどこも破綻しないままで腹腔内と外界が交通している。

野口整体の野口晴哉先生は「男性と女性は身体のつくりが違う。むしろ、動物のオスと男性、動物のメスと女性の方が近い」と書いておられる。

たしかに、身体のつくりは、哺乳類ではおおよそ一緒だもの。そりゃ男性と女性では違うよねえ、って話なんだけれど。

キリスト教の旧約聖書、創世記には、神はアダム(男性)の肋骨からイブ(女性)を作った、って書いてあるのだけれど、生物学的には女性の方が生き物のデザインとしては「ほんらいの形」であって、そこから男性、という形を作り出したらしい。

(なので、Y遺伝子にある、「男性になる!」っていうスイッチがうまいこと入らないと身体は女性型になる。アンドロゲン不応症などの病態が知られている)

そして、妊娠出産子育てをするには、ある程度の集団を作った方が有利だ、ってことになったんだろうと思う。魚みたいに、大量に産卵して、生き延びた個体だけがあればいいや、っていう戦略ではなくて、少数の子どもを丁寧に育てる、という方針にしたのだから、それは仕方ない。

二足歩行は、生殖には不利…な気がするんだけれど、うーん…どうして人類はそれを選んだのだろう、っては思う。『人は海辺で進化した』エレインモーガン、どうぶつ社、1998年なんて本もあったのだけれど、やっぱり水との関係があるんだろうかしら?https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%82%AF%E3%82%A2%E8%AA%AC これはアクア説と言われているらしい。あまりその後の発展が見られないけれど。

日本語のインターネットでは、「女性の健康」って入力して検索すると、まあ多種多様な情報が得られるのだけれど、「男性の健康」って入力して検索すると、本当に髪とシモの話しか出てこなくなる。この辺はとっても興味深い話だと思う。(わざわざ「男性の」と限定するからだ、という話はある。医学はもともとヒトを男性モデルで考えてきたところが大きいので。)

とは言いつつ、最近は男性更年期って話もわりと耳にするようになってきた。いやそれ、単純にくたびれてきてるだけなんちゃうの、っては思うのだけれど、男性ホルモンを補充すると元気になるひとが居るらしい。まあどっちもステロイド骨格をもったホルモンだから、このホルモンがでているからちょっと無理することができる、みたいなことが、エストロゲンみたいに、あるのかもしれない。

ステロイドホルモンの話は掘り始めるとけっこうややこしいことがわかってきた。核内受容体スーパーファミリー、っていう概念があって、ここに関係してくるらしいけれど、受容体が何と組み合わさるか、によってもその下流がだいぶ違ってくるらしい。エストロゲンの影響がどんな風に出ているのか、って網羅したいと思ったのだけれど、なかなか一筋縄ではいかない。