#40 妊娠中絶と身体への影響

nishi01

堕胎経験は、その後の「生理」に身体的な影響を与えるのでしょうか。妊娠の確率が変わるものなのでしょうか。罪の意識の有無による差はあるのでしょうか。

ご質問を頂戴していたのでした。堕胎…というのは法律の用語になってますねえ。医療では人工妊娠中絶と呼ぶことが多いかもしれません。英語で言うとArtificial abortionということで、AAと略称したりしています。自然流産がSpontaneous abortionなのでSAですね。

人工妊娠中絶術っていうのは、また生々しい動画が、英語なんかで検索かけていただくと結構でてきます。ご覧になりたい方もそんなに多くないでしょうけれど…。

日本語の古い教科書を読んでいると、「初回の妊娠は、人工妊娠中絶をしないで、できるならお産しておいて欲しい」みたいな事が書いてありました。どうして?って思っていたのだけれど、昔は本当に「掻爬」って、子宮の内膜をひっかいて削ることをかなり熱心にやっていたらしいので、ひどいと、いわゆる正常の内膜が再生するまえに、子宮の内腔が癒着して変形したりして、不妊になることがあったらしい。アッシャーマン症候群なんて呼ばれていて、そういえば教科書にも載っていたなあ、って思い出しました。

今はWHOが、人工妊娠中絶は掻爬法じゃなくて吸引法を用いるように、って勧告をだしていて、日本にも手動吸引をするそれ専用の器械が導入されてきています。

自然流産の時にも、子宮内容清掃術とかって呼ばれる処置をすることは結構あって、まあ人工妊娠中絶の時と、やっていることはほとんど一緒なんだけれど、こういうことをやらないと、結構出血が持続する場合がある、っていうのが理由だったみたいです。最近は経口の人工妊娠中絶薬が認可されたので、対応している施設では処方してもらえる話になってきたんだと思うのだけれど、これも結構出血が続く場合がある、ってことで、一部の先生方はそれを懸念されていたらしい。

子宮内容清掃術とか、人工妊娠中絶術とか、そういう処置を受けると、ある程度はその影響で子宮の内膜が薄くなってきたり、っていうことがある、のだろうと思いますけれど、じゃあ、それでみんなに明らかな変化があるか、って言われると、必ずしも、そんなに問題がでることは多くない、って思います。

もちろん、上述のアッシャーマン症候群を発症するようなことがあれば、また話は別なので、特に何もなかった場合、ってことになりますけれど。

ただ、これもきっちり統計をとったわけじゃないと思うのですが、こうした処置が多かった場合(不妊治療中に流産が多くて、処置が繰り返されたり、ということはまあ、あったりします)に、胎盤が子宮の後壁、やや低めに付着すると、この部分は処置の時の器械が出入りするたびにこすれている場所だったりして、ここで癒着胎盤が起こることがある、っていう報告もありました。この辺もまあある意味、運任せなところではあります。

という、身体的な話としては、「昔はわりと影響が言われていた時代もあったけれど、最近はそんなに影響することは多くなくなってきたよ」って形でしょうかしら。

あとは気持ちとの関係ですよねえ。

そもそも月経じたいが、初経の時にまわりの大人がどういう反応をするか、っていうことで、ご本人の受け止め方が変わるし、ご本人の受け止め方の違いは、やっぱり月経時の不調の出方に影響したりするだろうな、っては思います。

なので、ご自身の中で、妊娠中絶した、っていうことが、うまいこと受け止められていないとか、それを許せない、とかっていうことがあれば、月経や妊娠だけじゃなくて、ご自身の生活の全体に、うっすら影響が出てきている、っていうことは、あるんじゃないかなあ。

いろいろな事情があって、どうしても今、妊娠を継続することができない、っていう判断をなさった、ってことなんだろうと思いますし、それについては、現代社会では「個人」がその判断をして、その責任を負う、っていう形になってきていますから、なかなか誰か他人を責めることで自分の罪悪感から目を逸らす、っていうことも難しいのだろうと思いますけれど、開き直ることってのも結構、大事だったりします。

胎内記憶なんていうのをいろいろ調べている池川明っていう産婦人科医がいるのですけれど(クリニックではお産の取り扱いは終了されています)https://ikegawaclinic.net/ 彼の話によると、この世界に生まれてきたい、って思っている魂(赤ちゃんの候補)は結構いるらしいのだけれど、わりとその中でもそそっかしいというか、忙しい子がいて、そういう子は、妊娠してお母さんのお腹の中に来たら、それで満足して、そのまま流産…みたいなこともらうのだ、ってことでした。

ある程度親を選んで、かつ、生まれて来てからの人生設計みたいなものも立ててからやってくる、らしいので、人工妊娠中絶を受ける、っていうこと自体も見通してやってきている、ってこともあるんじゃないか、って思います。

だから、そういう子たちがお母さんを恨んでいるか?っていうと、そんなことは、きっと、無い。むしろ、いつまでもくよくよしている人を心配している、って方が多いんじゃないかな、と思います。