にしむら先生の解剖・生理概論の講義を公開します。先生が、出版原稿として用意されていたものです。ここに公開する理由は、以下の通りです。
一般に、教科書には大きな欠陥、不満がある。医療関係のものも、その宿痾 (しゅくあ) から逃れられない。
例えば、歴史の教科書は「歴史とは何か」から始まらない。歴史の定義については、書いてあるかもしれないが、歴史を学ぶ意義については、論じられない。日本の経済学の教科書、あるいはNISAの入門書は「価値とは何か」から始まらない。あるいは「金と何か」は説明されない。
これでは本当は困ってしまうのだ。この、底の部分の理解が欠けていると、その上に知識や、経験を、うまく積み上げられない。
残念ながら、医療関係、解剖や生理についての教科書も同じである。それが何であるのか、なぜ学ばなければならないのか、学んで何を得るのか、については、あらかじめ論じられない。多くの場合、分類された知識が、羅列されているだけである。
でも、公定の教科書は、そういうものである。受験のためのものであって、実人生に知識を活用するためには、別の理解が必要になる。この泣き別れを避けるには、記名の個人が書いたものがよい。というか、そういう形でしか、目的は達せられないのだと思う。
で、困ったことに、そういうものを書ける人は限られている。
意識も、意欲も、知識もあるが、残念なことに、文才か、時間がない方がほとんどである。幸いなことに! われらがにしむら先生は、幸か(我々にとって)、不幸か(先生にとって)、その両方をお持ちであった。おかげで、大変滋養に満ちた解剖と生理の概論を学ぶことができる。これは、とっても幸運なことなのだと思う。