#28 妊娠中の糖代謝異常について

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妊娠中の異常って、「妊娠合併症」って呼ばれるものが多いのだけれど、一部に「合併症妊娠」って呼ばれるものがある。(本当に紛らわしい名前で、両方、本が出版されているのだけれど、たしか後者だけが改訂されて再度出版されていた…今見たら版元の在庫なしになってる…。https://store.medica.co.jp/item/402358502

そんな合併症妊娠…と妊娠合併症…のちょうど間くらいのところに位置するのが「妊娠糖尿病(GDM)」って病態だと思う。

昔は良かった、っては言わないんだけれど、昔は「妊娠したら二人分食べてね!」なんて話になって、妊婦の体重はばんばん増やしてた(義母は妊娠中に20kg体重を増やして、産後にもとの体重に戻す、というのを3回繰り返したのだという。それはそれですごい)。やっぱりいろいろ問題があった、っていう反省のもとに、妊婦の「管理」っていうことがいろいろされるようになったので、今の方が良い、ってことになっているはず。

で、昔は「妊娠中に発見された糖尿病」のことを、すべて、「妊娠糖尿病」って呼んでいた。なにしろ、妊婦になるような人って、それなりに若いし、今までに病院にかかったこともない、って事が多い。そういう人だから、妊娠中に検査して、あ、糖尿病がある!ってなっても、いつからだったのか、なんてのは、わからない。

妊娠中はそもそも血糖値が高くなりやすい(これは胎児へ血糖を供給するためなんだろうと思う…とはいえ、やっぱりあまり多いと胎児が肥満になって、巨大児なんてことになると本当に難産になる)。これが、もともとの糖尿病予備軍、だったりすることと重なると、大変、っていうことで、これを妊娠中に発見して、血糖値を管理しましょう、っていうのがもともとのコンセプトだった。

その後、糖尿病学会の方で、この「妊娠糖尿病」のカテゴリーをやめたんだと思う…ちょっとその辺はうろ覚え。もちろん、妊娠中にとつぜん糖尿病を発症するひとも時々いて、こういう人が糖尿病性ケトアシドーシスなんかを起こすと、胎児の状態も悪くなったりするから、これはこれで対処が必要だし、妊娠前からの糖尿病の方も、いろいろ注意が必要。こういう状態は「妊娠中に判明した明らかな糖尿病」とか、「糖尿病合併妊娠」って呼ぶようになった。

糖尿病の一般的な治療としては、食事に気をつけるとか、運動するとか、っていうのに加えて、内服薬があったり、インスリンの注射をしたり、ってことになるんだけれど、妊娠中は、このうちの内服薬がくせ者で、これが胎盤を通じて胎児に行くと、胎児の低血糖を引き起こしたりする、らしい。なので、妊婦には内服薬は禁忌(つかってはいけない)ってことになっている。(最近は、ものによってはわりと妊婦に使っても良い、というか、胎児への良い影響が得られる、みたいな薬もあるのだけれど、今のところ、まるごと「禁忌」ってことにしておいた方が安全なので、そのまま禁忌って言っておく)

で、妊娠中に血糖値が高い状態が続いているといろいろ不都合がある、っていうのが、妊娠糖尿病をなんとかしよう、っていう発想につながるわけ。

たとえば、妊娠前から血糖値が高いと、先天奇形の発生率が高くなる、っていう報告がある。HbA1cっていう、3ヶ月の血糖値の平均を予想できる検査項目があるんだけれど、これの基準値がだいたい5%前後から6%前後までが正常、ってことになっている。これが、7%を超えてくると糖尿病として治療が必要だよねえ、みたいなことになるのだけれど、8%とか10%っていう人が、まれに、いる。そういう妊婦さんから生まれた子どもには、経験的に奇形が多い、ってことが知られている。詳細な理由はわからないのだけれど、血糖を代謝するのに発生する活性酸素がなにか、悪さをしているんじゃないのか?って、昔、大先輩に訊いたらそういう返事をもらったことを覚えている。

まあ、そういう人はそもそも「糖尿病合併妊娠」なわけで、さ。

じゃあ、妊娠糖尿病ってなにか悪さがあるのか?って話をすると、妊婦の高血糖が続くと、胎児が大きくなることがあって、難産になる、とか、昔の論文を見ていると、周産期の子宮内胎児死亡がやや多い、みたいな話が書いてある。いやどのくらいなんだろうねえ…。

逆に糖尿病で、母体の血管の状態が悪いと、胎児の発育制限があったりする、らしい。大きくなることも、小さいままのことも、いろいろあるのね…って本当に覚えるのと理解するのがとっても面倒くさい。

妊娠糖尿病について、一般向けに書いてくださっているのがあった。

妊娠と妊娠糖尿病|東京・世田谷での出産・分娩なら国立成育医療研究センター産科
妊娠糖尿病について患者さん用QandAです。
妊娠糖尿病|一般の皆様へ|日本内分泌学会
2.糖尿病・妊娠糖尿病
ポイント 未治療の糖代謝異常合併妊娠妊婦では,まず食事療法を行い血糖測定の上,目標血糖値を達成できない場合には…

 

最後のやつはどちらかというと専門家向けだけれど。

で、問題は赤ちゃんが大きくなりすぎる、あるいは高血糖の状態が続くと生まれてきてからいろいろ大変、っていうのが一番多い理由かな。この辺もあって、お母さんの太り過ぎ注意、みたいな話になっているんだろうと思うけれど、体重が増えなさすぎるのも問題で、適正な体重増加、っていうことを言ってる。

どうしても血糖値が高くなりすぎて、食事や運動だけではどうしようもない、ってなったら、インスリンの注射をしてもらうことになる。この辺は糖尿病の治療とほとんど一緒。一緒、なんだけれど、妊娠が終わると、その後、血糖値が落ち着くひともいる。

だから、産後しばらく経ってから、もう一度糖尿病の検査(75g経口ブドウ糖負荷試験)なんかをやり直すんだよねえ。妊娠中のこういう異常って、ある意味、妊娠っていう体の状態が、そもそも負荷試験みたいなものだから、やっぱり放っておくと、その後、血糖値が上がってくる人が多いらしい。

で、これもなぜなのか、今ひとつ理由がわかっていないのだけれど、しっかり母乳で育児すると、産後の糖尿病の発症率が下がる、っていう報告がある。少なくとも3ヶ月、しっかり母乳あげてね、って話になるし、ちゃんと3ヶ月以上母乳で育った赤ちゃん自身も糖尿病の発症リスクが下がる、っていう話になっているから、授乳はとっても大事らしい。

だいたい、育児している間は、自分の時間があまり無いから、症状も無いのに病院を受診する、なんてことができなくなっている人も多くて、そういう意味では、どこかでフォローアップしたいのだけれど、産婦人科…は血糖値見る専門じゃないし、内科…に行くほど今は血糖値高くないし、っていうところは、実は悩みどころでは、ある。なので、妊娠糖尿病って言われた人は、授乳しっかりしてね、っていうのもあるけれど、自分の血糖値って、どこかでまたみてもらっておいてくださいね。