#10 月経前症候群について-2

nishi01

ええと、月経前症候群(PMS)の話をしていたんだけれど。

私の臨床経験でいうと、月経前症候群(PMS)でしんどい思いされている方の多くが、みなさん、頑張り屋さんなんですよ。本当にね。仕事なんかも頑張ってやっておられるの。

しかも、これも興味深い話なんだけれど、外来にいらっしゃった月経前症候群(PMS)の患者さんに「PMSの患者さんって、みなさん頑張り屋さんなんですよねえ」って言うと、判で捺したように「いや、先生、わたしなんてまだまだ頑張りが足りないです」っておっしゃるの。本当にびっくりするくらい、みなさん一緒。この自己評価の低さ、っていうのが、月経前症候群(PMS)の病態の一端を担っているんじゃないかって私は思うわけですよ。だれか調べて論文にしてほしいなあ(他力本願)。

で。こないだも書いたけれど、エストロゲン(無理ができるように、頑張れるようにするホルモン)とプロゲステロン(エストロゲンの暴走を防ぐホルモン)とが、出入りしている中で、月経前っていうのは、プロゲステロンがしっかり分泌されて、エストロゲンの影響が弱まるタイミングなわけです。

で、そうすると、今まで頑張ってきて、体調不良の自覚は先送り!ってやってきた人が、「ちょっと今までの無理、いったん集めて、体調の整理するよ!」ってなってくる。つまり、ちょっと無理を重ねていて、身体がしんどい、っていう部分を直面することになる。

もう一つ言うと、このプロゲステロンが高い状態って、妊娠の時も同じ形になるからね。妊娠すると、自分と、それからお腹の中の子どもと、二人分の安全を確保しなきゃならなくなるでしょ。で、そういう妊娠の時の予行演習をしている、っても言えるわけ。

体力的には下駄が一瞬脱げて、素の自分にもどる。(エストロゲンが出ていて頑張っている人ほど、疲れが溜まっていて、このときに一気にそれを自覚することになるので、素の自分、よりもちょっとキツいかもしれないけれど)

妊娠の予行演習、っていうのは、PMSの症状がどんな形で出てくるのか、っていうところと大きく関わってくるんだろうと思う。イライラして、攻撃的になるのか、それとも涙もろくて、引きこもりがちになるのか。

そういえば、学生さんたちに月経前の不調について、調査したときは、本当にみなさん「眠気がすごい」って書いておられた。これはそもそも睡眠時間短い人が多かったから…?なのかもしれない。今になってそんなこと気づいても、じゃあ睡眠時間アンケート一緒にとってなかったんだけど。ねえ。

そんな調査をしていた先生(その先生がやっておられる尻馬にのって賑やかしをわたしがやっていたわけで…)に、聞いた話としては、月経前症候群の症状の出方と、その人の成育における家族(両親)との関係性っていうのが特徴的にありそうだ、ってことでした。

まあ、若いころの両親って、いずれ成人して、自分が家庭つくって、妊娠出産に向かう時の、モデルケース(理想的かどうかは別にして、どこかの基準にはなるっていう意味ね)だから、そういうこともあり得るよねえ。じゃあ、わかったからどうしろと?っていう部分も大きいので、一概になんとも言えない部分ではあるのだけれど。

で、ひとまず、現代的な西洋医学の対処法としては、あちこちのWebサイトにも書いてあるけれど、ホルモンの変動に振り回されないように、っていうコンセプトで、1つは「低用量ピルみたいなもの(あるいは擬似的に閉経するようなホルモン剤)を使って、人工的にホルモンの変動を消失させる」っていう方針。

ただし、低用量ビルも、その他のプロゲスチン製剤も、どうしても黄体ホルモン作用が残るから、薬に含まれる黄体ホルモン作用がPMSを引き起こすこともあるので、場合によっては注意が必要。もう一つの偽閉経療法、ってのは、長期間すると骨粗鬆症やその他の更年期障害が出現してくるので、いちおう、最大6ヶ月を上限とする、ってことになっている。そういう意味でも、緊急避難の時の治療法ってことになる。

もう一つは、「ホルモンに振り回されない、元気な身体を作っていく」っていう方針。もちろん、対症療法として「むくみには利尿薬、精神症状には精神薬、身体の痛みには鎮痛薬」っていうのもある。精神症状については、わりとSSRIって呼ばれる抗うつ薬が有効、って報告があるので、なんなら、こちらが第一選択薬って言う先生もいらっしゃるのだけれど、これもわりと不思議な内服方法があって、症状が出現する黄体期だけSSRIを内服する、っていう。

一般的にはSSRIってのは、じんわり効いてくる薬、っていう扱いで、導入に1週間とか2週間とかかけて、その後、ゆっくり効果が得られる、みたいな話になっているから、1ヶ月の間に内服したり、しなかったり、って「そんな飲み方で効くのかよ…」って、普通のSSRIの処方されている先生にはびっくりされることが多いらしい。だから、この時期の気分の落ち込み、っていわゆるうつ状態とはまたちょっと違うってことなのかもしれないよねえ。

月経前症候群(PMS)にピンポイントでの薬としては、チェストベリーがある。これが、OTC薬(薬局で販売されている市販薬)なんだよねえ。https://prefemin.jp/ そんなに効くなら、保険収載してもらったら良いのに…って話もあるんだろうけれど、保険収載にはまたとっても高いハードルがある、んだろうと思う。

あとはざっと漢方薬が有効なことが多い。たとえばクラシエ製薬(昔のカネボウ製薬が名称変更したのよねえ。保険収載の漢方薬と、OTC薬とどちらも作っています。どちらかというと、後者に力入れている) https://www.kracie.co.jp/kampo/kampofullife/enjoy/?p=9566 なんかも月経前症候群(PMS)に対する体質別にお薦めの漢方薬を出しているけれど、まあ、いちばんは専門家に診てもらって判断するのが良いよねえ。ここには出てきていないけれど、ある種の体質の人に半夏白朮天麻湯がとってもよく効いたこともあった。

どっちにしても、普段の頑張りすぎをちょっと抑えて、しっかりゆっくりする時間をつくって、無理しない、っていうのがいちばんの対処法で…ってすげえ地味だなあ。まずはそれをするために、何が足りていないか、っていうのを見て、足りないところを漢方薬なり、鍼灸なりで補うんだけれど、何よりも地味で面倒くさい、日々の生活ってところがいちばん大事だったりするので。こういう体調不良は。

そこを、症状記録しながら、治療家のアドバイスとか、頑張ったね!のフィードバックとかがくると、わりと体調管理を頑張りやすい、のだけれど。

そうそう、症状記録するでしょ。それを自分で見返すことになるでしょ。そしたら、いつごろしんどくなるか、っていうのが客観的に把握できるようになったり、症状をわりと客観的に見られるようになったり、っていうことで、自己肯定感が爆上がりして、治療効果もあるんだって話だった。そういうセルフケアができるように、ってサポートしていくのがかかりつけ産婦人科医の仕事のひとつ、なんだよねえ。