更年期と更年期障害の話をすこししておこうと思うので、先日インスタに載せた文章をリクエストされたこともあって、あらためて書いてみることにするね。
更年期、ってのは閉経の前後、それぞれ5年ずつを言うんだけれど、閉経は定義的には「(卵巣のはたらきが低下して)月経が恒久的にこなくなった状態」って書いてある。臨床的には「1年間月経がなかったら、閉経だったね、と判断しよう」ってことになるのだけれど、この定義は本当に使いづらくて。
つまり、更年期に入ったかどうか、が確定してわかった時=閉経が判明したとき、には、既に更年期は6年経過している、っていうことになる。
あまりにも役に立たない定義なのだけれど、まあ、世の中的には、51歳くらいが閉経の平均年齢ってことになっているから、ざっと、45歳ころから55歳ころまでを更年期、って呼ぶことにしている。
更年期はなので、だいたいそのくらいの年齢になる女性は全ての方が該当するのだけれど、この時期にでる不調で、他の病気じゃない、ってことがはっきりしていて、生活に支障が出る、っていうものを「更年期障害」って名前で呼んでいる、いろいろ説明されているけれど、この時期は卵巣のはたらきが低下してきて、女性ホルモンであるエストロゲンとかプロゲステロンとかがだんだん分泌されにくくなってきている、っていうのが理由なんじゃないか、(とくにエストロゲン)って考えられていて、治療にはエストロゲン(と、プロゲステロン)を補充しましょう、みたいな話になっている。
更年期以降、ずっと女性ホルモンは減ったままになるんだったら、ホルモン補充はずーっとしないといけないの?って疑問になると思うのだけれど、あまり長期間のホルモン補充治療を継続すると、乳癌の発生リスクが少し高くなる。なので、通常の場合は、更年期前後の急激なホルモンの低下を、ホルモン剤で、「緩和して、軟着陸させる」ために一時的に補充しましょう、っていう説明をしている。(https://medicalnote.jp/contents/160526-009-AJ )だいたいは、60歳くらい、閉経から10年くらい、がひとつの目安になる。
女性ホルモンが出なくなる、のは、おおよそみんな一緒なのに、更年期障害はひとによって、出方がいろいろ違うのはどうしてなんだろうか。(更年期、そんなに不調は出なかった、っていうことを言っていこう、って三砂ちづる氏なんかはそんな記述を残している。
https://www.mishimaga.com/books/osekkai/001808.html )とか、本当にホルモンの減少だけが理由なんだろうか、ってのはまあ、真面目に更年期障害の診療をやっていたら、わりと思い当たるようなことらしいので、その辺の調査をされた先生があった。
その調査によると、更年期障害、って、お産が大変だったとか、育児が大変だったとか、あるいはその後の生活が…とか。大変だった人に、特に、強く出るんだ、っていう研究がまとめられている。お産の大変さ、が更年期にも響いてくるのか…って、論文のことを知った時に、そんなに時間差があって影響するの!?って思った。(https://cir.nii.ac.jp/crid/1541417145266032768 など)
でもこれって、まっとうに考えてみてもつらいことだよねえ。
更年期前まで大変だった人の方が、更年期障害も大変だ、って。ねえ。こういうの、踏んだり蹴ったり、っていうやつじゃないか、って思う。盗人に追い銭?とか泣きっ面に蜂とかってことわざもあるけれど。
更年期障害の臨床で、じゃあ、ホルモン補充療法ってのが万能で、どんな更年期障害の症状のひとも良くなるのか?っていうと、ぜんぜんそんなことはない。
なにしろ、更年期障害の「症状」って、本当に多彩なの。
わりと有名どころで言うと「ホットフラッシュ」とかってのは結構多い。のぼせて、暑い感じがして、顔やあたまに汗をかく、っていうのが典型的なホットフラッシュ。(更年期のチェックリストとしてはSMIなどが有名なものになっています。たとえば https://www.hisamitsu.co.jp/hrt/check/ とか)
でも、そもそも「自覚症状の原因が説明できない場合」を不定愁訴って呼ぶんだけれど、更年期に出現する不定愁訴がひどいもの、を更年期障害、って言うのだから、まあ様々、他に異常が無い、っていう不調の人達がみな「あなた、それは更年期障害じゃないですか?」って形で「産婦人科に行ってみてください」って言われるわけで。
めまい、かたこり、関節痛、腰痛、動悸、気分の落ち込み、倦怠感…なんてのはみんな「更年期障害じゃないの?って言われて…」って産婦人科にいらっしゃったり、する。もちろん、そうじゃない方もあるんだろうけれど、産婦人科で診療していると、産婦人科にいらっしゃった方しか見えないから、ねえ。
本当に更年期障害の診療をしていると、世の中の女性はみんな、更年期障害で苦しんでいるんじゃないか、って錯覚したりする。
まあそれは錯覚だ、って知っているつもりではあるのだけれど、そんなこんなで、わりと「更年期障害」とか「更年期障害じゃないですか」っていうようなあたりの患者さんを診てきてた。
いろいろ事情があったりして、ホルモン剤は使いたくない(乳癌の治療中とか、もともとホルモン剤で不調になった経験があるとか、あるいは単純に良いイメージが無いからとか)という人も結構いらっしゃって、じゃあ、漢方薬でいろいろなんとかなりませんかねえ…ってやってきた。
わりと最近になって、漢方での診療は精度がいちだん上がった気がするのだけれど、これは、「そもそも子宮は身体の熱を出血の形で外に出していた」っていう考え方を教えてもらってから。
更年期になると、月経が無くなってくるから、身体の熱を月経の出血にして出していくことができなくなるのよ。で、こもった熱が、のぼせにつながる。
これには、熱を冷ます系の処方がわりと有効で、ただ、そればっかりじゃなくて、身体の中の「陰(漢方の気血水理論で言うなら血とか水とか)」をしっかり補っていくことで、熱が上昇しにくくなっていく、みたいなことが大事だったりする。
なので、睡眠がとっても大事、って思うのだけれど、なかなか皆さん、忙しくて寝不足なのよねえ。
さらに言うなら、あたまが忙しい状態が長期間持続していると、本当に熱がこもりやすくなるのよ。パソコンやスマホも、長時間稼働していると、熱がこもるでしょう?人のあたまも似ているところがあって。で、熱がこもったあたまだと、睡眠の質が悪くなってきて、悪循環に入ったりもする。
なので、日々の生活で、しっかり養生することが更年期の対処としては、本当に当たり前すぎるのだけれど、大事だったりする。
まあ、漢方の話は、人によってもあう・あわない、があるので、具体的な処方の話はあまりしないことにするけれど。(「私はこの症状なんで!この処方ください!」って指名してくる方が増えても困るし。それが向いている場合もあるけれど、見当違いのことも結構あったりするので…)
もう一つ、更年期のことを言ってしまうと、子育てが終わった時点で、生き物としては、そろそろ寿命、なんです、って説明している。
もちろん、にんげんは、孫世代の子育てに、その智恵を発揮することで、集団としての生存率を向上させてきたから、お年寄りはぜったい不要!みたいな議論にはならないのだけれど(おばあちゃん効果)、もともと生き物の設計としては、たぶん妊娠出産育児、くらいまでしか想定していないんだろうと思う。それを無理矢理?後付けで寿命を延ばした?んじゃないか、と私は考えているのだけれど、つまりは突貫工事で作った増築部分で、まあそりゃ、本館とは頑丈さが違うよねえ。だから、大事につかってくださいね、って伝えると、わりと皆さん、苦笑しながら、そうですねえ…って反応してくださる。そういう意味では更年期って元々の意味からしても「切り替わる時期」だし、ギヤチェンジして、そろそろゆっくりしてくる時期なんだよ、って思う。
更年期の話はもうちょっとあるのだけれど、ひとまとまりついたので、いったんここまでにしておこう。
リクエストされてた、ホルモンの関係については、別の項を立てて、そっちに書いてみることにするね。
このエッセーへの質問とお答え
男性ですが、女性の生理に当たる、身体特徴はあるのですか。月経前や更年期は、ある意味、女性が、これまでの体の無理に気が付くタイミングでもある、ということかと思いますが、男性には、これにあたる身体の仕組みはないのでしょうか。