#58 湿疹と、じんましんの話

nishi01

皮膚の湿疹の話を、そういえば書いてなかったなあ、って思い出したので、久しぶりに書いてみようと思う。

アトピー性皮膚炎、とか、じんましん、とかって、やっぱり皮膚科の診療としてはけっこう難しいことになっているはずなんですよねえ。

アトピー性皮膚炎に関しては、最近「セラミド」というのが足りない、って話が聞こえるようになってきた。セラミドってなんじゃらほい?

セラミドってのは「スフィンゴ脂質のひとつ」ってことになっているらしい。いやなんだかよくわからん。スフィンゴ脂質ってのは…?って調べたら、長鎖アミノアルコールを骨格として持っている?脂質のこと、らしい。

「哺乳動物細胞におけるスフィンゴ脂質のスフィンゴイド塩基は、主にスフィンゴシンsphingosineであり、そのアミノ基にアシル基がアミド結合するとセラミドとなり、そして、セラミドにさまざまな親水性の頭部が結合して複合スフィンゴ脂質complex sphingolipids (分子中にリン、イオウ、アミノ酸、糖などを含むスフィンゴ脂質)となります(図1)。」

II.スフィンゴ脂質について

 

ふむ。さっぱりわからん。

アミノ酸…とはちょっと違って、酸の部分が無い。脂肪酸ともちょっと違う。長鎖脂肪酸の「酸の部分」がなくて、アミン(窒素を含む、アルカリ系の官能基)になってるのね。で、そこに、アミノ酸的な形で、アシル基がくっつく…?ってこと?長鎖脂肪酸は、だいたいはアルコールと化合しているけれど、これは「塩基」だから、別の形でつながる、ってことなんだろうねえ。

で、このセラミドっていうのが、わりとくっつく?いろいろの自由度が高いらしい。

だから、大きな分子の中に、いろんな元素とか、あるいは構造をくっつけているらしい。

細胞にとって、便利な分子、ってことになるポイントのひとつは、たぶん、脂肪酸みたいに、「細胞の基本的な構造」に使っているものと、材料が「途中まではよく似ている」ということ、そして、最終的なポイントで「オスメスが逆」みたいな形で、脂肪酸に紛れないで済む、ってこともあるのかもしれない。

で、これが細胞外にマトリックスを作るときの骨格になっている?らしいし、わりとこのオスメスが逆になった官能基の部分が、節操なく反応する…?からかどうかはわからんのだけれど、分子としてはわりと大きくて、疎水性の部分が多いのだけれど、それを持ったまま、官能基の部分は親水性にできるから、保水に役立つ、のだそうだ。

ってことで、ちょっと「セラミドとは」って調べると、皮膚の中で保水に役立つ成分、って話ばっかりが出てくる。

そして、このセラミドが微妙に欠乏する?のがアトピー性皮膚炎なんだとか。

Journal of Japanese Biochemical Society 89(2): 164-175 (2017)

 

加えて言うと、このセラミドが分解された産物が、生体メディエータになっている、らしい。つまり、感染が起こったとか、炎症を引き起こそうぜ、みたいな話の引き金になっている…らしい。

アトピー性皮膚炎の場合、そのようにして、保湿とか皮膚の保護成分として欠乏している点と、炎症のシグナルが出入りする点の両方において、セラミドが立役者になっている、ってことらしい。

だったらさ、これ補ってあげたら良いんじゃねえの?ってのはわりとみんな考えることで、いろいろなセラミドが配合された化粧品が発売されているんだそうで。外から補う、で良いのかどうか、ってのはまた別の話なのかもしれんけれど。

じゃあ、これ、薬用ってことでさ。保険収載したら良いんじゃねえの?って素直に考えるのだけれど、そうはなっていない、ってところが、政治の話なのか、それとも、やっぱりそれだけでは説明がつかないアトピー性皮膚炎の病態なのか。

アトピー性、っていうのが今ひとつよくわからんところだけれど、時々、皮膚炎の方を見ることがある。皮膚炎も、24時間以内に消失する、痕の残らないものだと「じんましん」って呼ばれ方をする。

アトピー性皮膚炎の場合は湿疹ができて、それをまたひっかいたりして、皮膚のバリアが壊れるから、また過敏になっていて、そこに何かが触れることで皮膚炎とか湿疹とかを引き起こして、っていう悪循環にはまってしまっていることが多いとされている。

だからまずは、その悪循環を断ち切って、皮膚のバリアを回復させてしまいたい、って思っているわけで、まずは痒くて、ひっかきたくなるのをなんとかしようぜ、って話と、皮膚のバリアをなんとか補おうぜ、って話が出てくる。このポイントで、ステロイドってのは、けっこう有効だから、いったんちゃんとした火消しをしたい、っていうところで短期決戦には有効なんだろうと思う。

ところが、世の中には「脱ステロイド」っていう言葉があって、ステロイドの使用が長期化すると、皮膚が薄くなってきて、敏感になるとか、っていうこともあるし、やめたい、っていうニーズが多い、ってことでわたしは理解している。必ずしも全てのひと、ではないのだろうけれど、そういう、ステロイドをやめたい、やめよう、使ってはいけない、ていうような「信念」もどこかを漂っているように見受けられることがある。

じんましんの原因ってのも、わかるような、わからないようなことが多いらしい。基本的にはありとあらゆるものが皮膚炎の原因になり得る、らしい。極端な方の場合だと、「水」が触れるとそれだけで皮膚炎を引き起こす体質の方もあるのだとか。(水アレルギーとかって呼ばれているのだけれど、実態は、水の「物理的刺激」によって引き起こされている、ということで、水を摂取するのは問題がない、ということを知った。これは中学生の息子がどこかのインターネットからそういう情報を引っ張ってきたらしい)

原因が避けられるものの時は、まあ、それでも生活が不便になるのだけれど、思い当たる原因がそもそも避けられないとか、あるいは原因物質がなんだかわからない、なんていうこともしばしばある、らしい。

じゃあどうするのか?っていうと、皮膚炎とかじんましんとか、っていうのも、わりと「社会・心理・生物学的なモデル」が通用するらしく、皮膚の症状が出現するには、体力が落ちている、とか疲れている、などという要素がけっこう大きく関与していることも多いのだとか。

だから、原因がわかって、原因を避けるのもひとつの治療なのだけれど、原因がわからない場合は、「疲れやストレスをため込まない」とか「しっかり休養をとる」なんていう行動だけでも、だいぶ症状が出づらくなったりする、らしい。

そういう水準のひとつの話ってことで、漢方的?な皮膚炎・じんましんの病態解釈をこれから披露してみたい。いやこんなにもったいぶって言うほどのことじゃないのだけれど。

皮膚炎って、炎症でしょ。炎症は、「熱」なんですよ。

で。じゃあ、熱ってどこから来るの?っていうと、そりゃ陰火みたいに、疎通性の悪い水が欝滞していたりすると、そこから熱が出てくる、なんていうこともあるんだろうけれど、いちばんわかりやすい、特徴的な熱は、「頭」からなんじゃないかと思っている。

スマホだって、パソコンだって、長時間酷使していると、熱くなってくるでしょ。ひとの頭も、まあ似たような話があるのだろうと思うのですよ。

実際に、頭に触れると、頭がいっぱいになっていて、熱い、という方はけっこうあります。この熱をどうやって逃がすのか、って話があるのだけれど、なかなか難しい。

女性の場合は、月経血にして、熱を放出する、っていう方法があるから、頭が熱いような、熱がこもっているひとは過多月経になりやすかったりする。

他には、鼻血もひょっとするとこういう熱を逃がす方法なのかもしれない。

漢方的には、「血」あるいは「陰」をしっかり作って、身体を冷ます、ってことになっているのだけれど、これには、十分な睡眠が必要、ってことになっている。そして、たいへん困ったことに、頭が熱い状態だと、寝付きが悪くなる。あるいは、途中で目が覚めるなんてことになる。

できたら手足から放熱したいし、放熱も実際にしているのだろうけれど、産生されている熱の方が多いとなると、そりゃ、熱がこもるよねえ。

こうして、頭の緊張からこもってきた熱が、逃げ場を求めて、皮膚を走る…と、かなりブンガク的に書いてみたけれど、じゃあ、どうして皮膚から出している、っていうことになるのか、って部分はまだちょっとわからない。

皮膚から出さなくて済むひとってのも存在するのかしないのか、存在するとしたら、じゃあどこから熱を逃がしているのか?なんて話を考えると夜しか眠れなくなる。

まあ、冗談はさておいて、頭の使いすぎで、熱が発生していて、それの逃げ場が皮膚になっている、っていうことは十分にありそう。治療はなので、清熱してあげたら良いのだろうと思う。

そういえば、典型的な清熱剤で「黄連解毒湯」ってのがあるんだけれど、不眠症にも使うのよねえ。これ、不眠ってのが、頭が熱くて眠れない、っていうひとならば、とても有効なんだろうと思う。

ここに血虚を補う四物湯を足すと「温清飲」になる。更年期障害のひとにも良く使う処方だったりする。四物湯は、胃腸が弱いひとには、胃のもたれ、なんて症状が出ることがあるので、その部分だけ気をつけて欲しいけれど。

じんましんをおっしゃるひとは、心窩部の緊張もなぜか強いひとが多かった。ここがやわらかくなると、全身の緊張が減るのか、何が良いのかわからないけれど。みぞおちはみぞおちで揉んで頂くことをお薦めしている。

散鍼みたいな方法で、熱を散らすことができるなら、それだけでも皮膚炎は軽快しそうなんだけれど、でもいくら熱を散らしてみても、熱源を放置していたら、やっぱり難しいんだろうと思う。なので、頭の緊張と過労を減らしてあげたい。

前にも書いたけれど、頭の中で考えていることを全部書き出す「未完了の完了」がお薦めだったりする。

実際に「未完了の完了」と言うには、実は、未完了のことを書き出すだけではダメで、完了させるための予定をたてなければならないし、さらには、その予定を消化しなきゃならない筈なんだけれど、意外と脳はそのへん、上手いこと騙されてくれる。つまり、「明日のわたしに申し送りを書いてもらう」だけで、「用事は済んだ」って感じるらしくって。頭が軽くなって、しっかり眠れるようになれば、次は血虚が解消しはじめるし、皮膚の潤いも改善してきそうだと思う。

そういう意味では今までの悪循環を断ち切って、よい循環に入り始めるところなんだろうと思うし、ぜひ試してみて欲しいと思う。

思うのだけれど、まあ、頭を酷使して、熱くなるタイプのひとは、実は、それが自分の得意パターンだったりするから、ねえ。どうしても、そちらにエネルギーがつぎ込まれがちだったりするよねえ。

その辺、「わかっちゃいるけどやめられない」ってのが人間のありようとしては、まあ仕方ないなあ、って思うところなのかもしれない…けれど、ほどほどに頭も冷やして欲しいと思う。