#94 番外編:汗や体臭、排泄物の匂いの話

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辻本先生から、また大きなお題を頂戴した (質問は文末に)。体臭と汗の話。そして、排泄の匂いの話。

これはけっこう難しい話になるのかもしれないし、私もどこまで答えられるのかわからないけれど、ちょっといろいろ、考えてみようと思う。

 

まず、汗についての一般的な話をすると、汗腺には2種類ある、ってことになっている。一つはエクリン腺。そしてもう一つはアポクリン腺という名前がついている。この辺の情報はたぶん、ちょっと探してもらえると出てくるのだけれど、おおよそ「エクリン腺から分泌されるものはほとんどが水」という話になっている。アポクリン腺はフェロモン?とか脂肪分とかを分泌するらしいけれど、場所が偏っていて、腋窩とか乳頭付近とか、あるいは下腹部とかって場所に集中?限局?しているらしい。もともとヒトの体毛が、どうして腋窩とか陰部だけになっているんだ?っていう疑問については、ここに匂いを作ることで云々、っていう話があるから、まあその匂いのもと、ってことになっているのだろう。

 

ちなみに、卵性の哺乳類である、カモノハシという動物がいるのだけれど、哺乳類なので、授乳する。授乳するのだけれど、乳房のようなものは発達しておらず、どうやら「腹部の皮膚から授乳用の汗をかく」らしい。で、その汗みたいな分泌物を子どもが舐める?(カモノハシって嘴があるのだけれど…どうやって?)ってことになっている。乳腺というのは、アポクリン腺が独自に進化して形成されたもの、らしい。https://www.tennojizoo.jp/blog/11575/

どうやってそれぞれの汗を使い分けしているのだろうか、って話になるのだけれど、汗をかく事情が異なると、それぞれ分泌されるものも変わってくるらしい。

発汗|体温とその調節 | 看護roo![カンゴルー]

体温とその調節、っていう話で、看護師向けのサイトだけれど、発汗について書いてある。

 

温熱性…つまり暑い時の汗。体温調節。エクリン腺からの分泌がほとんど。なので、だいたいはほとんど水ってことになっている。

精神性…いわゆる冷や汗みたいなものや、ストレスによる手汗など。手のひら、足の裏、脇の下を中心とした発汗。うそ発見器はこのときの汗を検出してうそを見つける、らしい。

味覚性…辛いものを食べたときにかく汗らしい。基本的には顔を中心とした発汗になる。

 

うーん。なんかねえ。じとっとした汗?ねばっこい汗?みたいなのもあるじゃんねえ。って話になるのだけれど。それは使っている汗腺が違うから?ってことなの?って思っていたのだけれど、「エクリン腺の機能低下があるとねばっこい汗が出る」、って書いてあるWebサイトもけっこうあるなあ…分泌が減ると、中で濃縮される、みたいな話なのだろうか?このあたりは、今ひとつわかりづらい。

 

野口整体の野口晴哉氏は、上手にあせをかくように、っていう話をいくつか書いておられる。

入浴の時に、ややぬるいところに半身浴を続けていると、最後の方になって、ねばっこい汗が出てくる、それをきっちり出してやると、身体の調子が良くなる、みたいな書き方をしていたような記憶がある。

また、彼の観察の中に「汗の内攻」という話がある。皮膚から汗が出て、それが衣類を湿らせた状態で、そのまま冷えると、一度出た汗が「戻る」のだ、と表現してある。水を皮膚から吸収するかしないか、というのは、けっこう判定するのが難しい。昔私が読んだ本には「水泳した人は水泳前より体重が減っているのだから、皮膚からの水分吸収はない」って書いてあった。すげえ雑な研究だなあ、と、一周まわって感心した記憶がある。だって差し引きがマイナスであることと、皮膚から分泌される水分(汗)がある、っていうことは情報としてあるけれど、皮膚から吸収されていない、と断言できる根拠、いっさい無いじゃんねえ。

 

この皮膚からの水分吸収はあり得るのか、どうか?って話は私(にしむら)の中ではけっこう大きな問題として永年ひきずってきた。の、だけれど。とあるお坊さまが修行の一環として、断食された、というエピソードを読んだ時に、そこにある種の「解答」が書いてあった。断食にもいろいろあるのだけれど、いちばんきついのは水も飲まない、というものらしい。(なお、断食を繰り返すと胆石ができやすくなる、らしい。なので、修行と健康法はやっぱり別もの、ってことになる)

水も飲まない断食をしつつ、そのまま普段通りに後輩の指導など、日常の業務をなさっていて、周りの人が断食されているのに気づかない、というのだから、これまた恐れ入る、のだけれど、さすがにやっぱり身体に負担がかかる。やっぱりしんどくなる、らしい。そういうときには、湿った土に穴を掘って、その中で少しお休みされるのだと書いてあった。そういうことをすると、その後の衣類がとても土臭くなるので云々、ってことなのだけれど、究極のところでは、どうやら、皮膚から水分を吸収する、ということが可能なのかもしれない。

 

汗の内攻の話だった。

じゃあ皮膚から吸収されたわけじゃないこの汗の話はどうなる?って部分は、ちょっとわからん、ということで棚上げにしておくとして。それでも汗をかいたまま、放置すると、いろいろ具合が悪いことが起こる。

そういえば、野口先生は「風呂上がりの扇風機も気をつけろ」ってなことを書いていたような気がする。あれで脳卒中が増えるっていうようなことだったかもしれない。やっぱり汗の内攻、ってジャンルになるんだろうと思う。

 

汗冷え、と呼ぶこともあるのだけれど、野口式では、汗が皮膚から「戻る」って考える。で、戻った汗は、「同じところからは出ない」っていうルールがあるらしい。行き場のなくなった水分を、どうにか排出しよう、っていうことになったら、出る場所は「腸」になるか、あるいは「肺」になる。腸から水分が排出されると「下痢」になる。肺からの排出をうまいことできないと「喘息」になってくる。

初夏から梅雨 ~ 汗の内攻 ~ | 野口整体 白山治療院
汗の内攻 4月も後半になると、少し汗ばむ陽気になってきます。そうすると、急に体調をくずす人が増え

この辺にちょっと汗の内攻あたりのことをお弟子さん?ぽい方が書いておられる。

 

漢方的には皮膚の下に腠理という構造があるとされていて、ここが上手いこと疎通しないと、汗がうまいこと出ない、ということになっている。ただ、喘息の人なんかを診ると、やっぱり背中の筋肉がかたまっていることも多い。汗の内攻と呼ばれる現象は、ひょっとすると、汗が出た状態で湿が高まっているまま冷える、ということで湿と冷が重なることで、局所の水滞を引き起こし、後続の汗が排出できなくなる、ということなのかもしれない。

 

葛根湯なんかは、汗腺をうまいこと開いて、発汗させることで治療をする。解表薬ってのはそういう使い方をするのだけれど、汗をかく、というのは、治療でもあるのだけれど、体力の消耗、という面もあるので、注意、ってことになっていた。さらに体力が低下すると寝汗、とかあるいは脱汗といって、汗がこんどは止まらない、みたいな話もあったりする。それぞれに治療法が異なってくる。

 

「皮膚が開く」って言い方をすると、ちょっとそれはそれで複雑で、汗の話と、臭いの話を一緒にしてしまって良いものか、悩ましいのだけれど、ボディートークの増田明氏は、ときどき、身体ほぐしをしていると、急に、臭いが放出される人がいる、とその著作『ボディートーク入門』に書いておられる。うまいこと理屈を説明しきれないのだけれど、皮膚なのか、筋肉なのか、身体の緊張があると、臭いをその中に「ため込む」ことになっている場合がある、らしい。

 

最近は有名になった加齢臭の話は、香水の話を書いておられる方が、ヒトから分泌される脂質が、酸化するなど変質したときに発生する臭いであることを発見した、というエピソードがあった。(『調香師の手帖』https://publications.asahi.com/product/9967.html 中村祥二、朝日文庫)近年は女子高生(…くらいの年齢の若い女性…)の匂いのもとが判明したということで、その匂いを配合したボディーソープが発売されて話題になったこともある。https://xtrend.nikkei.com/atcl/contents/casestudy/00012/00235/ 分泌物+酸化+常在菌による分解代謝、の組み合わせなのだろうと思うのだけれど、この組み合わせが複雑、ということになる。

 

匂いというのは、大脳新皮質に投射しないまま、情報の処理をしている、いわば「原始的」な感覚である。「だから言語としては使えないのだ」ということで、言語のモダリティとして用いられる音声-聴覚とか、文字-視覚とか、あるいは点字-触覚とかとは異なる。その分、情動に強く訴えかける傾向があったりするという話はわりといくつかのところで出てくる。

私は読んでいないのだけれど、マルセルプルーストの『失われた時を求めて』という本の中にも香りをきっかけにして記憶がよみがえる、というエピソードがある、ときいたことがある。https://www.karumoa.co.jp/suvaliteair/column/proust/ プルースト効果と呼ばれているらしい。紅茶とマドレーヌのエピソードだったから味覚じゃないの?ってうっかりツッコミたくなってしまったのだけれど…うーん。やっぱり嗅覚なんだろうかしら、ねえ。

 

人間では退化した、と言われているのだけれど、フェロモン、という嗅覚を介した情報伝達があったりする。https://www.nhk.jp/p/ts/47NWJQ9RP7/blog/bl/pz9jbbjeYa/bp/pMNvbnbVXM/

寮で生活している女性の月経周期がみなで揃ってきた、というあたりは、やっぱり、それなりに情報の伝達があるんだろうな、と思うのだけれど、フェロモンの定義としては、これは知覚限界以下の用量で反応が引き起こされる、ということだから、香りを知覚しているわけじゃ、ないのだろうけれど。一応、こういう分泌物はアポクリン腺から分泌されている、っていうことになっているのだけれど、ごく微量の成分をどこまで検出できるのか、ってけっこう難しいらしい。

 

汗と体臭の話に戻ると、中学生とか高校生が、クラブ活動で使った汗まみれのTシャツなんかは、本当にきつい臭いがする。いわゆる汗臭い、というものだけれど、これは汗に加えて、雑菌の繁殖によるものが多いらしい。ちなみに密閉して放置するととんでもなく臭うようになる。洗って、乾かしたらいったん臭いが軽減するのだけれど、一度こうして妙な臭いがついてしまうと、ちょっと湿ったところで、特有の臭いが再現される。あとは熱湯ないしは漂白剤などを用いて殺菌しなおさないといけない、らしい。

また、化学繊維にこびりつく臭い、というのもあるらしいので、混紡だったり、化繊の衣類できつい臭いがするときには、これもまたそれに対応した対処を考えていただく必要があるのだという。

 

大学生の着古したTシャツの匂いをかいで、好き嫌いを判定する、という実験があった。(論文は1995年出版)https://echool.tachibana-u.ac.jp/column/067.html これによると、白血球の血液型である、HLAが自分と異なる相手の匂いを好む傾向があった、という。ヒトも遺伝子の多様性を匂いとか本能の水準で見分けているらしい。思春期以降、ニキビができやすくなる、などの変化があるけれど、これは個体として、異性へのアピールのシステムだったのかもしれない。

 

匂いアピール、という話になると、犬がしばしば、他の個体の肛門付近に鼻をちかづけて、匂いを嗅いでいるのを見かける。排泄物の匂い、というのも、いろいろなサインに用いられるのだろう。

 

ゴリラは、ストレスが高まると臭い糞をするのだという。これは、別個体に対して「ここは危険だ」というメッセージにもなる。ストレスがかかると下痢っぽくなるシステムはヒトにも伝わっているのだけれど、種を超えて、大事なシステムだったのだろうから、仕方がないのかもしれない。

 

ヒトでもストレスがあると臭いが出てくる、というのを資生堂が発見していた。

資生堂、緊張によるストレスで皮膚から特徴的なニオイが発生することを発見 | ニュースリリース 詳細 | 資生堂グループ企業情報サイト
資生堂は、皮膚表面から放出される気体・皮膚ガスに着目し、緊張という心理的ストレスが加わることで特徴的なニオイが放出される現象を発見、その成分として2化合物ジメチルトリスルフィド(dimethyl tr...

「資生堂は、皮膚表面から放出される気体(皮膚ガス)に着目し、緊張による心理的ストレスが加わることで特徴的なニオイが皮膚ガスとして放出される現象を発見し、その成分として2化合物を特定しました。」やっぱりヒトもそれなりに嗅覚というものを情報伝達として使っていた、のかもしれない。

 

排泄物の話に戻るけれど、一般には肉食動物の糞の方が、草食動物のそれより臭いがきつい、ということになっている。ヒトでも、食事の内容によって排泄物のにおいがかわってくる。肉食の方が臭いはきつくなるのが一般的な話らしい。これは腸内細菌との関係もあるだろうし、肉の分解代謝で窒素化合物(最終的には尿素とかアンモニアになる)が多くなる、っていうのもあるのかもしれない。

 

一部で有名な話に「アスパラガス尿臭」というのがある。これは遺伝子が特定されていて、このにおいに反応するか、しないか、というのは、この遺伝子の変異で決まるらしい。アスパラガスを食べたあとの尿に特有の匂いを嗅ぎ取る遺伝子の人がいる、という話になっている。

あなたは匂いを嗅ぎ分ける能力がある?アスパラガスを食べた後の尿の匂いを感じやすい遺伝子タイプが多い都道府県ランキング
匂いの感じやすさも遺伝子で。アスパラガスを食べた後の尿の匂いを感じやすい遺伝子タイプが多い都道府県ランキングを発表。1位 山梨県、2位 新潟県、3位 鹿児島県。ユーグレナ・マイヘルスとジーンクエストの...

 

尿の臭いもいろいろあるのだけれど、尿が分解されて、アンモニアを発生させるようになったりすると、さらに刺激的な臭いが漂ってくる。尿の漏れた臭い、というよりは、このアンモニア臭の方がつらいことになる。のだけれど、嗅覚というのは、徐々に順応していくので、長時間同じ臭いにさらされていると、その臭いを感知しなくなる。なので、自分の匂いというものに対して、人は思いのほか鈍感になっているらしい。

 

そういえば、蚊に刺されやすいかどうか、の違いに、足の裏の臭い?がどうとか、っていうのを高校生が発見した、という話があった。

https://news.ntv.co.jp/category/society/400210 臭い、という形ではっきりする前に、常在菌の種類の違いっていうことになっていたように記憶している。足の裏をきっちり洗うとか、除菌するとかしていると蚊にさされにくくなってくる、らしい。

 

臭いと皮膚の常在菌との関係っていうのは、けっこういろいろありそうで、それなりに話は進んでいる様子なのだけれど、常在菌の分析なんていうような仕事は、わりと地味な研究になってしまうのかもしれない。

 

汗と臭いの話はたとえばこの辺も参考にしていただけたらと思う。

「気になるカラダの“におい”」③ ~汗のにおい~|読むらじる。|NHKラジオ らじる★らじる
2023/07/05 「マイあさ!」 健康ライフ

 


参考:辻本がお送りした質問はこちら。

今日、帯状疱疹のワクチンを打ったのですが、ワクチンを打つたびに思うのに、身体から、普段は体臭を感じるのです。とくに汗をかいている自覚はないのだけど、なんといのか、昔の病院でよく嗅いだ匂いのような。何の匂いなのだろうか。気のせいなのだろうか。で、尿には何の匂いもしないのです。

身体から排出されるものって、涙とか、唾液とか、汗とか、尿とか、便とかあると思うのですが、これの成分って何なんでしょうか。特に汗って興味深い。

私は積聚治療という施術をするのですが、背部のツボに鍼を接触させていると、患者さんの体臭が変わっていくのです。が、それの意味がいまいちくみ取れない。

粘度が高い汗って、さらさらした汗と違う何かが出ていると思うのですが、あれは何なのでしょうか。ミネラル、なのでしょうか。自律神経が興奮したときに、掌や足から出る汗や、性的に興奮した時に発する腋下の汗の匂いは、身体コントロール上、どういう影響があるのでしょうか。衛気とか営気みたいな話なのですが。あまり汗を身体状態変化の指標にすることは、少ない気がするのですが。