#51 医療全般:がん家系なんですけれど…

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がん家系、っていうのにもいろいろあります。

たまたま、ご家族がみな「がん」になっておられた、という「それぞれの方が別々の事情で発癌されていた」偶然が重なっただけ、という家系もあるでしょう。

いやいや、そうじゃなくて!っていう方もいらっしゃいます。

いわゆる、遺伝性の腫瘍と呼ばれる家系がいくつか知られていて、これらの家系ではそれぞれ、いくつか知られている「がん抑制遺伝子」のどれかに「変異」があり、がん抑制の働きが低下しているために、容易に発がんしやすい、ということが知られています。

遺伝性腫瘍についてはこちらhttps://ganjoho.jp/public/cancer/hereditary_tumors/index.html に書いてあります。

たとえば、アンジェリーナ・ジョリーが、お母様の乳がん罹患などから、いろいろ調べた結果、こうした家系にみられる遺伝子の変異(BRCA1の変異)があることを知って、子宮や卵巣、そして乳房の予防的切除を行った、というニュースを、衝撃とともに受け止めた方も結構いらっしゃるのかもしれません。https://gan-senshiniryo.jp/experience/post_650

そこまではやり過ぎだ、という意見もあるでしょうし、いやいや、やっぱり大事な予防的切除だ、って考える方もあるのだろうと思います。

予防的切除を行うことで、じつは今まで卵巣癌と考えられていた、漿液性腺癌が、卵管采から出てきている証拠が見つかった、という話があります。「卵巣癌が卵管癌だったなんて、そんな馬鹿な」ってわたしも思いましたよ。最初。本当に。でも、最新の解剖生理学の教科書にはちゃんと明記してあります。

これは、予防的切除をされたものを病理学的に詳しく検査してみたら、卵管采の部分にいわゆる前癌病変とか、あるいは上皮内癌、と呼ばれる、癌の0期病変が見つかった、という話です。

こういう発見が進んだのは、間違いなく予防的切除がなされた結果ですから、医学の知見がひとつ積み重なる、という意味では効果的だったわけです。ご本人にとっても、本来なら放置して、発癌してから切除しなければならなかったものを、早期に切除することで、根治できた、という点では、喜ばしいこと、なのかもしれません。

わたしが学生の時には、まだそこまで遺伝性腫瘍とか、がん抑制遺伝子の話は詳細が知られていたわけではなかったと思うのですが、それでも家族性大腸ポリポーシス(FAP)、という遺伝性の病態があって、この疾患をもって生まれた方は、大腸の予防的な全摘出を行うことが多いのだ、という話を講義で聴きました。予防的とは言っても、すでに大腸全体が、ポリープで埋め尽くされているような図像を見た覚えがあり、これは予防切除した方が長生きできるのだ、という説明を受けたことを覚えています。

こうした家系は、それほど多いわけではありませんが、発がんの年齢が比較的若いこと、や、複数のがんを認めること、などがあった場合には、一度かかっている先生に相談されるのもひとつだろうと思います。今は遺伝子の変異を検査することもわりと簡単になりました。自費にはなりますが、そのような検査を受けて頂くことも、こうした家系を疑った場合には大事なことになります。

…というのが、いわゆる「がん家系」のいちばん深刻なパターンの場合、ですが、最近の日本人の死因を考えると、ほぼ3分の1が「がん」で、あとの3分の2が「脳血管疾患」「心疾患」です。ということを考えると日本人の3人にひとりはがんで死んでいるわけで、早期発見などによって治癒したがんを含めると、まあ、それなりの人数の方が、がんになったりする経験をされている、ってことになります。

昔は、そんなにがんが無かったじゃないか!っておっしゃる方もあると思います。が、当時はまだまだ感染症(結核や猩紅熱など。あるいは乳児の肺炎などもありました)や、ケガなどでいのちを失う方が多かったわけで、言い方はアレですが「がんが出てくるまで長生きできていなかった」という言い方があります。

なので、「がん家系」って思うようなことがあったら、そのときがんで治療を受けている、その主治医の先生に訊いてみてください。「がん家系かもしれないと思うのですが…」って。本当に必要があれば、遺伝子の検査も段取りをしてくださると思います。

そして、そうじゃない方の場合も、けっこうある、っていうことでご理解ください。まあざっくり、「そんなに心配ないんじゃないかと思いますよ」ってことです。特に、がんが見つかったのが年齢が高くなってから、みたいなことが多い場合には。