2 生物学的なヒト身体の概観

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2-1 発生学的なヒトの身体の成り立ち

ヒトの発生は、卵子と精子の結合によって生じる受精卵、という一つの細胞から始まる。もちろん、受精卵がそのままヒトである、わけじゃないし、卵と鶏との話があるから、それを作った大人個体、ってのがその前には居るんだけれど、まあひとまず、受精卵からはじまり、ってことにしようと思う。

ヒトの遺伝子は細胞の核にある46本の染色体=DNAとタンパク質の複合構造=にある。受精卵は精子と卵子と、それぞれの配偶子の融合によって成立するわけだけれど、配偶子っていうのは、成熟した個体が持っている46本の染色体を半分にする(減数分裂)ことで成立する。ここで減らしておかないと、配偶子の相手と、こちらが、46本ずつの染色体を持っていると、次の世代は染色体が倍になってしまうから、ねえ。

まあ先に進もう。精子と卵子の核を融合させることで受精卵が形成された後、受精卵は細胞の分裂を開始して、当初は1個の細胞から2個、4個、8個、16個、と倍々に細胞の数を増やしていく。その後、いずれは、およそ37兆の細胞の数をそろえて、人の体を形成していく。(昔はヒトの細胞はおよそ60兆って言われていたけれど、最近、あらためて計算してみると、37兆くらい、ってことに落ち着いた。

これはそれぞれの組織における体積あたりの細胞の数をそれぞれ数えて、それに体積をかけることで計算された。細胞の数を数える、っていうことの一番簡単なものは血球なんだけれど、赤血球の数はだいたい500万/mm3って計算がされている。ヒトの血液が全体で体重の7−8%と言われているので、50kgのヒトでだいたい3.5Lから4Lになるでしょ。1Lってのは1.0×10^6mm3だから、500万x3.5x1000000個ってことで、ヒトひとりの中で、17兆くらいは赤血球ってことになる…って思ったら、ここには70kgの男性で28兆くらい、って書いてあった。まあ数え方によるんだろうけれど、結構な割合が赤血球ってことになるのは間違いない。https://www.kobe-np.co.jp/rentoku/rika/201812/0011889740.shtml

まあ、この辺は単にかけ算しただけで、生まれてきたときにそれだけの細胞数がある、っていうわけでも、ない。とはいえ、そこまでどうやって上手いこと増えながら、役割分担しながら、っていうことをやっているんだろう、っていうのはとっても不思議なことのように思える。

受精卵が細胞分裂と分化を重ねてヒトが発生するプロセスは、あたかも単細胞生物から多細胞生物への進化を、そして、多細胞生物として、脊椎動物、哺乳類へと進化してきた歴史をなぞっているようにも見られる。だから、端的に「個体発生は系統発生を繰り返す」という反復説が提唱されたし(エルンスト・ヘッケル(Ernst Heinrich Philipp August Haeckel, 1834-1919)ドイツ)、https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%8F%8D%E5%BE%A9%E8%AA%AC 日本でも類似の思想をもった研究者がいた(三木 成夫『胎児の世界―人類の生命記憶』 (中公新書 (691)) 中央公論新社 、1983年)。https://www.chuko.co.jp/shinsho/1983/05/100691.html

発生の具体的な内容に関しては、割と最近、よい一般向けの本が翻訳された。(ジェイミー・A. デイヴィス (著), 橘 明美 (翻訳)『人体はこうしてつくられる――ひとつの細胞から始まったわたしたち』紀伊國屋書店2018年)。https://www.kinokuniya.co.jp/f/dsg-01-9784314011648 この辺だけで一冊の本になるので、興味がある方はそれはそれで勉強していただきたいと思う。

さて、受精卵は1つの細胞から、体積を半分、数を倍、という形の分裂をしばらく繰り返す。だいたい16細胞くらいまでは、どんどん細胞の体積は半分に、全体の形は丸いまま、ってなっているけれど、その先、胚盤胞という形をとる。この時には、胚(受精卵が細胞分裂して、胎児のなりかけの状態を胚と呼ぶのだけれど)その細胞が、胚の周辺を形成している栄養膜っていう部分と内側の塊(内細胞塊)とにわかれていく。

栄養膜はこの先、胎盤とか卵膜を作っていくけれど、この時の内細胞塊の細胞を採取してきて作られる胚性幹細胞っていうのが、いわゆるES細胞って呼ばれるものになる。遺伝子を上手いこと導入した個体を作る、っていう話は、だいたいこの辺の細胞を操作して成立しているらしい。

胚盤胞の内細胞塊がいずれ、胎児になっていくわけだけれど、まずは割と平面的に増殖していくことになる。平べったい円板を作り始めるのだけれど、これを胚盤葉って名前で呼んでいる。こうやって円板になった状態ができて、受精卵ないし胚が子宮内膜に着床する前後のタイミングでは、この円板の細胞が上層と下層に別れ、この上層が「外胚葉」に、下層が「内胚葉」になっていく。って話なんだけれど、じゃあ、どうしてそんな細かいタイミングのことがわかるんだろうねえ…?って不思議に思わない?

この辺はずいぶんと倫理的には問題のある形で研究がなされたんだ、って話を読んだ『胎児のはなし』増崎英明・最相葉月、ミシマ社2019年https://mishimasha.com/books/9784909394170/ どうやら、死刑囚となった人たちと交渉して、妊娠したタイミングでの死刑執行から子宮の研究、みたいなことを結構やってきたらしい。そりゃ、今になって、もう一度同じことってのはできないから、発生学の教科書に書いてある図がどの書籍も本当に同じような絵が載っているわけだ、って納得した。やっぱり医学研究って、どこか、ネジがはずれている必要があるのかもしれない。

まあ、細胞分裂しつつ、胚の細胞はいろいろ分化していくわけだけれど、外胚葉はその後皮膚や中枢神経を形成することになり、内胚葉は呼吸器の上皮組織や消化管上皮、肝臓や膵臓などを形成することになる。

この辺は人体発生のアニメーションなんかも結構あるから、興味ある方はまた探していただけたら、と思う。

ここから、外胚葉の中心、縦軸に一本の窪み(線条)ができてくる。ここが体軸になるんだけれど、この線条の形にくぼんだ部分を神経溝って呼ぶ。この窪みの両側が盛り上がって、くっついてく形で脊髄を形成していくわけで、頭の方は、どんどん細胞増殖、体積の拡大を実現して、脳を形成していくことになる。

このくらいのタイミングで、上下の層…外胚葉と内胚葉…の間に移動してくる細胞があって、中胚葉と呼ばれている。発生の話を考えていると、単細胞から多細胞なんて進化は一番最初だけれど、その後ここまでは二胚葉生物の雰囲気が残っていて、ここから三胚葉の生物になっていく、みたいな形で個体発生の物語は生物全体の歴史をある程度なぞっているっていう説を示す傍証みたいなものかもしれない。中胚葉は、この先、性腺(卵巣/精巣)や腎臓、循環器、筋骨格、脾臓なんかを作っていく担当になっている。

外胚葉の軸…神経管とか…を作るタイミングに平行する形で内胚葉も管腔を形成しはじめる。だから、2本の管腔が上下に並ぶ形になるのね。『ゾウの時間、ネズミの時間』https://www.chuko.co.jp/shinsho/1992/08/101087.html って本で一世を風靡した、歌う生物学者、本川達夫氏が『生きものは円柱形』https://www.nhk-book.co.jp/detail/000000885402018.html?srsltid=AfmBOorWmO5r90W-QyW0s5QVfQtGoLz5MGR1OTsy1ZQ3B-GeYwGqoKCK って本を書いているけれど、ヒトを含めて、生き物の構造はおおよそ円柱を基本にしたものが多い。

いずれ消化管になっていくこの内胚葉の管腔は、卵黄嚢をその一部に吸収していく。この消化管の主管から分岐した細胞が肝臓や膵臓を形成しはじめる。消化管はその後どんどん伸びていって、個体の体長よりもずーっと長くなるわけだけれど、それをお腹の中におさめた形にするために?っていう目的があるのかどうか、いったんねじれてループを形成したり、あるいは行ったり来たりするようなことで、いわゆる成人の消化管の形態を実現していく。間違って逆に捻れることって無いの?って思うかもしれないけれど、これが、実はまれにある。先天性の腸回転異常ってことになる。https://www.msdmanuals.com/ja-jp/professional/19-%E5%B0%8F%E5%85%90%E7%A7%91/%E6%B6%88%E5%8C%96%E5%99%A8%E7%B3%BB%E3%81%AE%E5%85%88%E5%A4%A9%E7%95%B0%E5%B8%B8/%E8%85%B8%E5%9B%9E%E8%BB%A2%E7%95%B0%E5%B8%B8%E7%97%87 症状を伴う人たちは6000人にひとり、くらいの割合であるらしい。

口の近くで、消化管の一部がさらに分岐して、ここが気管になっていく。これが伸長し、細かく分岐することで気管支や肺胞を形成する。気管支は最大で23回の分岐をするらしい。2の23乗をすると、838万を超えるけれど、それだけの数の肺胞を形成していくということになる。肺全体の形成はその後徐々に進み、羊水を吸い込むことで、肺胞を広げてみたり、妊娠35週前後ころより肺胞の細胞からサーファクタントという界面活性分子を分泌することで表面張力を軽減し、さらに肺胞を拡がりやすくするなどの準備をすることで、出生後の呼吸に備えている。

中胚葉の細胞の一部は全身に配列しながら血管を形成してゆく。胸部に大きな血管を形成し、その一部が律動的な収縮を始める形で心臓の原基が形成されることになる。これもまた最初は心室と心房が一つずつであるように見えたりするけれど、脊椎動物の進化を再演しているようにも見える。妊娠6週(受精卵の形成から4週間)ころには成人ヒトとほぼ同様の心臓の形態をとりはじめ、超音波エコー検査で、心拍を確認することができるようになってくる。

四肢は、中胚葉由来の細胞が骨格や筋肉を形成するかたちでできあがってくる。手はもともと団扇のような円板の形に細胞が配列したのち、指の間のいわゆる「水かき」にあたる部分の細胞が計画的に細胞死をおこすことで、それぞれの指が「切り離される」ように作り出される。このように、計画された細胞死のことをアポトーシスと呼ぶ。このアポトーシスは、通常の病理的な細胞死であるネクローシスと比較する形で説明されることが多い。

およそ妊娠8週ころにはヒトに近い外観をもった形態をとるようになるが、この段階で頭殿長(頭から殿部までの長さ)は15-30mmであり、胎児と呼ばれるようになる(それまでは「胎芽」と呼ばれている)。その後胎児はサイズとしては劇的に成長していく。人生の中で、サイズが倍になる、なんていうことは滅多にないけれど妊娠8週から計算すると、身長だけでも、ゆうに150倍くらいになっていることがわかる。体重の増加はもっと大きい。通常妊娠37週から41週頃に出生する際にはだいたい、身長50cm、体重2500gにいたる。

ここで生まれてきても、まだまだ未成熟な器官があったりする、というのだから、いろいろ不思議ではある。例えば肺は生まれてくるまでは機能していないし、それに応じて、循環の構造も、胎児の循環は胎盤への行き来があったりする一方で、肺への血流が少ない、なんてことが起こっているけれど、生まれてきたところで、臍の緒が切断されて、肺への血流がしっかり流れるようになったりする。

もう一つ未熟な臓器としては、腎臓があげられる。胎児期は身体の中の不要物を排出する先は、胎盤だった。なので、腎臓は尿をつくって、お腹の中で排出はしているのだけれど、それはきれいな羊水になっている。生まれてきてから、やっと腎臓から不要物の排出を始めるようになるから、しばらくして、腎臓がしっかり濃縮できるようになるまでは少し薄い尿ってことになっている。

ヒトは立って歩くようになった関係から、骨盤の底部にしっかりした蓋をする必要ができてしまった。ここを産道とするのだけれど、あまり大きな形の穴になると臓器が全部落っこちてしまうから、お産の時にはすこし小さいままで生まれてくる、っていうことを選んだ。(生理的早産)https://www.jstage.jst.go.jp/article/primate/28/0/28_56/_pdf/-char/en 一説によると頭の大きさを考えると11ヶ月ほど早い、らしい…っていや11ヶ月もってなったら今の妊娠期間、倍になりまっせ!それはそれで、胎盤だとか、母体だとか、いろいろ無理がかさみそうな気がする。どういう計算なのかわからんけれど。

まあ、コアラやカンガルーとは違うのだけれど、生まれてすぐに立ち上がれない哺乳類っていうのも、そんなに多くなかったりするけれど、そういう点ではやっっぱり未熟な形で生まれてきているのかもしれない。

ヒトの成り立ちを、発生の側からみると、こんな風に、見える。

 

 2-2 細胞の成り立ちと働き

病理学者でもあった、ウィルヒョウ(Rudolf Ludwig Karl Virchow,1821-1902)は、「全ての細胞は細胞から生じる」と主張し、生物の生命活動の中心は細胞である、って形で「だから細胞が大事なんだ!」って言ったかどうかはしらないけれど、細胞を大事にしていたんだろうと思う。

細胞って名前がついた一番最初はコルクだったから、細胞ってのは植物の中の構造として認識されたのかもしれないけれど、その後、動物でも似たような形で細胞が個体を形成している、っていう理解に至ったんだろうと思う。とはいえ、植物と動物では細胞を成立させる道具立てがやや異なる。植物ではいわゆる細胞壁っていうのがあるのだけれど、ここではヒトの話をしたいから、もっぱら動物細胞についての話をしていく。細胞壁のことが知りたいあなたは、植物細胞についての一般書なり専門書にあたってほしい。

 

細胞は膜で包まれている…うーん。この表現で良いんだろうか。ってちょっと悩む。細胞が膜で包まれている、っていうか、ある液体の中で膜が形成されて、その膜のこっち側とあっち側にわかれていく、そのこっち側のひとかたまりを細胞と呼ぶようになった、っていうこと、なのかもしれない。

まあ、あまり面倒くさい話をすると話が進まないので、なんとなく、細胞の一番外側には膜がある、っていう理解だけしてもらっていたら良いのだけれど、この「細胞の中とそとを区別する」膜を形成しているのは主にリン脂質と呼ばれる分子。これがうわーって並んで、二重の層を形成している(脂質二重膜)。って言われても、イメージ湧きづらいよねえ。うん。リン脂質のイメージは湧きづらいとおもうけれど、石けんなんかの界面活性剤のイメージってある?

https://jsda.org/w/04_yakud/cleannote27.html なんか界面活性剤、って単語で検索かけてもらうと、まち針みたいな絵がいっぱい出てくると思う。このまち針の頭の部分が「親水基」って呼ばれていて、この部分は水に溶けやすい。で、針に該当する部分が「疎水基」って呼ばれていて、これは油に溶けやすい。だから、この界面活性剤っていうのは、油の周囲に疎水基を展開して、で、小さい塊をそのまま親水基で覆うことで、「油汚れを水に混ざりやすくさせる」という働きをしている。これが界面=水と油の境界線を活性化=表面積を増やして、細かく混ざり合うようにする働きだから、界面活性剤、ってことになる。

細胞の脂質二重膜っていうのは、ちょっと、この「油汚れを水に混ざりやすくした」ミセルと呼ばれる状態に、似ている。まあ、細胞の中は水が主成分になるから、中側に疎水基が出ているままは、具合がわるい、ので、内側にも、反対向きの界面活性作用を持つ分子を並べてみる。そうすると膜が2重構造になるでしょ。これを脂質二重膜って呼ぶ。

この「膜」って呼んでいるものは、じつは、リン脂質っていう分子構造のものが、ただ同じ平面にずらずらっと並んでいるだけ、なので、ちょっとその間にものがあったりすると、わりと膜の中をあちこちに移動できる、らしい。で、こうした膜の中にとどまっているタンパク質があって、膜タンパク質って呼ばれている。一番多いのは、いわゆる受容体、って呼ばれるような働きを持つタンパク質で、外側からくる情報を仕入れて、細胞の中に信号を起こしたり、あるいはその他の変化を引き起こすきっかけになったりする。

細胞の内側の水…水なんだけれどさ。ここはタンパク質だとか、代謝産物だとか、細胞内小器官だとか、いろいろな構造があったり、あるいは分子が反応していたりするわけで、この部分を原形質、って呼んでいる。原形質は、顕微鏡で観察するときにはわりと透明に見えるけれど、内部の小器官をじっくり観察していると、中に微妙な流れがあるようにも見える(原形質流動)。まあ代謝しているからねえ。

そして、ヒトを含む真核細胞生物の細胞では、核膜と呼ばれた膜で包まれた別のスペースが作られていて、これを核、って呼ぶ。核を除く原形質の領域を細胞質と呼ぶ。だから、真核細胞の動物は「細胞質と核」からなる細胞を持っている、ってことになる。核には遺伝情報のほとんどがDNAの形で保存、複製されており、このDNAから複写されたRNAがタンパク質に翻訳合成されることで遺伝子の情報が伝達される(セントラルドグマ)。

ちょっと驚くべきことなのかもしれないけれど、ヒトの身体を構成する37兆の細胞のひとつひとつに、核があって、その核の一つ一つに、ヒトの遺伝情報が全て詰め込んである…って言おうとおもったんだけどさ。赤血球は成熟すると核を捨てちゃうのよ。

まあそれもいろいろ事情があって、赤血球って、酸素を運ぶ装置でしょ。だから、なるべく効率よく運びたいから、赤血球じたいが、酸素を消費する構造を持たないようにしてあるのよ。なので、37兆の内のまあ3分の2くらい?の細胞は、ってことになるんだけれど、それでも沢山ある身体を構成する細胞は、それぞれが、ほとんどの場合、ヒトひとりを形成できる遺伝子をその内側に持っている。どれだけ冗長やねん。って思うよねえ。

ところが、じゃあ、その冗長な情報を、どこかで活用することができるのか?って話になると、結構難しい。結構難しいところをなんとか力業で実現したのが、iPS細胞ってことになる。一度分化していくと、なかなか幹細胞に戻ることっていうのは難しい話のはずなんだけれど、遺伝子を導入することでそれを実現した、っていうのがすごいことになっている。

 

さて、遺伝子が発現して、それを翻訳してアミノ酸を配列・合成することで、タンパク質が作られるわけだけれど、こうしてできたタンパク質が、細胞内の構造維持や細胞内での代謝機能、あるいはタンパク合成などを担ったり、膜タンパク質として、受容体になってみたり、あるいは細胞外の分子を細胞内に取り込む働きを発揮してみたり、する。

加えて、さらに小さい形のタンパク質は細胞外に分泌されて、細胞間のシグナル(内分泌)として働いたり、組織外への働きかけ(外分泌)を行ったりする。

こうした、細胞の内外で行われている分子(主にタンパク質)の反応を化学的に解明するのが生化学とか分子生物学とか呼ばれる分野ってことになる。

 

生命の活動と細胞の分裂

生命の特長的な活動としては「代謝」ってのと「自己複製」ってのが挙げられる。逆にいうと、これらが無い存在は、生命として認めない、っていう話もある。代謝とは、外界から物質を取り込み、細胞の内部で生化学的な反応を起こすことで、必要な物質の合成やエネルギーの抽出を行い、不要になったものを排出する一連のはたらきのことをいう。

細胞が生命として活動するにあたって、そのエネルギーは、主に糖、脂質、あるいはタンパク質という分子を分解することによって抽出され、ATP(アデノシン3リン酸)の形によって運搬される。特にエネルギーの抽出には、細胞内小器官である、ミトコンドリアと呼ばれる構造で、分子の酸化分解が行われており、この反応は細胞内呼吸と呼ばれている。

 

自己複製ってのは、個体であれば次の世代の個体の産出ってことになる。これは一般には生殖と呼ばれている。細胞のレベルでは同じ細胞の産出をしていて、これはつまり、細胞の分裂のことをいう。

 

細胞の分裂って一言でいうけれど、ざっくり分けると、核を二つにわけて、細胞質を二つにわけたら、分裂したことになる。とは言っても、細胞質はまあともかくとしても、核はそのままでは二つに分けられないから、まずは核の中にある染色体ないしDNAを複製することから始まる。遺伝情報である核のDNAがまるごと2セットに複製されたら、(見えているのはだいたい染色体であるが)それらを細胞質内で両極に分離し、その後細胞質を分割することで一つの細胞から二つの娘細胞が形づくられる。

DNAが複製される場合、その複製の原理上、どうしても末端の部分がわずかながら短くなる。(はじっこはコピーできない仕様になってるので)だんだんDNAが短くなっていく、って言う話はちょっとホラーかもしれない。遺伝子がはじっこから消えていく、っていうのはちょっと困る。そのため、もともと複製しなくても困らない、無意味な繰り返しの配列で、それなりに余白を作っているらしい。この部分のことをテロメアと呼ぶのだけれど、細胞分裂を何回も、何回も繰り返していると、さすがにテロメアの部分も徐々に短縮してくることになる。これがある程度よりも短くなると細胞は分裂を止めるって話になっているらしい(細胞老化)。

まあ、多くの細胞がそういう形で、分化して、分裂の回数に制限があるっていうのが一般的であるのだけれど、その一方で、何度も分裂していても、分裂した細胞が元の細胞と同じ性質を持ち続け、かつ別の種類の細胞に分化する能力を維持している、っていう細胞がある。これが居るから、ちょっと怪我した、なんて言うときにも復活できたりするわけだから、結構大事な細胞なんだけれど、こういう「自分自身を分裂によって作る」ことができていて「いろいろな細胞に分化する能力を残している」細胞を幹細胞と呼ぶ。

もちろん、ヒト個体の中にある幹細胞っていうのは、「どんな細胞にも分化する」っていう状態はすこし通り過ぎていて、自分の専門分野の中で分化する働きをある程度残している、っていうことになっている。この幹細胞のテロメアがどうなってるの?っていうのは、うーん。やっぱりテロメアーゼって、テロメアを伸長させる道具立てを持っているらしい。https://jams.med.or.jp/event/doc/117015.pdf

 

専門分野って言ったけれど、細胞は分化しつつ、いろいろな専門に分かれた構造を形成していく。こうした構造を「組織」とか「器官」って呼ぶ。

 

 2-3 「組織」と「器官」

組織とは、って話をすると、定義がちゃんとしたものがあった。一種類の細胞の集まりではなくて、複数の種類の細胞が集合して、同一の目的を実現するために配列したもののことを「組織」と呼ぶ。組織をざっくり分類すると、上皮組織、筋組織、神経組織、結合組織の四種類に分類される。

 

上皮組織っていうのは、「外界」との接触面に形成される組織のことをいう。外側との最前線っていうことは身体の中で一番「上」にのっているわけだから、上皮、ってことになる。ヒトの身体の中で、わかりやすいのは、大きく体表を覆う表皮(皮膚、汗腺など)の部分だけれど、それに加えて、呼吸器や消化器の内側にも上皮(消化液分泌腺、消化管上皮、気管支上皮、肺胞上皮など)があって、たしかに、消化管とか気管支とかっていうのはそれぞれ、「外界」と接しているって話になる。

 

筋組織ってのはわかりやすいと思う。いわゆる筋肉を形成している構造になる。神経の刺激などによって収縮して、運動エネルギーと熱を産生している。大きく分類すると、随意筋…つまり自分の意識で動きをコントロールできる筋肉…である骨格筋と、不随意筋…自分の意識では動きをコントロールできない筋肉…である平滑筋(これは主に消化管などの内臓に配置されている)と、心筋に分類される。心筋は骨格筋に似た横紋筋でありながら、不随意筋である、っていうことで、ちょっと別扱いされているため、分類がスッキリはしないんだけれど、まあ生き物ってそういうことが時々ある。

 

神経組織は、中枢神経と末梢神経に分類される。中枢神経は、脳と脊髄、ってことで、末梢神経は、その脊髄から出て身体中に伸びている。厳密な話をすると、末梢神経だって、その根っこは脊髄のところにあるわけで、一番長いと1mを超える形の細胞ってことになっている。ただ、神経の場合は、この軸を伸ばしている細胞の周りにグリア細胞っていう絶縁効果を持つ細胞が取りついていたりするので、神経の単位としては、一個の細胞、ではなくて、長く軸を伸ばした神経の細胞と、このグリア細胞の作る髄鞘っていう構造…はあったりなかったりするんだけれど…を組み合わせた単位で「ニューロン」って呼んでいる。

グリア細胞が存在すると、細胞内の電気信号が伝わるのがとっても速くなる、という効果があるらしい。ニューロン同士が、きっちりくっついて情報を伝達しているのか、それとも少し隙間があるのか、っていうのは、ずいぶん議論があったらしいけれど、今では少し隙間がある、っていう結論が得られている。この隙間にたとえばアセチルコリンとか、セロトニン、ノルアドレナリン、なんかの神経伝達物質を分泌したり、吸収したりして、情報のやりとりをしているらしい。調べてみたら、そんな少数じゃなくて、結構いろいろなバリエーションがある、ってことになっていた。https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%A5%9E%E7%B5%8C%E4%BC%9D%E9%81%94%E7%89%A9%E8%B3%AA?variant=zh-cn

 

結合組織ってのは、微妙に説明がしづらい。上述の三つの組織に当てはまらない、不活性な組織ってことになっているけれど、それって、「残ったもの全部」ってことになるの?あまり特定の役割りがある部分、じゃないから、系統だって分類もできない、みたいなことになるのかもしれない。おもに構造の支持に関与している、って言われるけれど、分類としては雑多な内容なので「その他」みたいな扱いだと思う。骨とか、軟骨はここに分類されているし、皮下脂肪もここに該当するはずなんだけれど…。

 

器官

こうした、「組織」があって、それをさらに組み合わせることで、複雑なはたらきを行うことができるようになる(たとえば、消化管っていうのは、消化管の上皮と、それから、平滑筋組織とが組み合わさっている。もちろん、間の部分を支えているところには間質組織なんかもあるし、自律神経も出入りしているから、関与の具合はそれぞれ異なるかもしれないけれど、おおよそ4つの組織をそれぞれ組み合わせた形で器官ができている、気がする)。こういう器官が一揃いあることで、個体として、一通りの生命活動を営むことができるようになっているわけで、まあ、それを一応、それぞれの専門の部分にわけて「器官」って呼んでる。

 

ヒトの身体を構成している器官をざっくり分類すると、古い言い方なんだけれど、「植物機能」ってのと「動物機能」っていうのの二種類に分けられる。わりと雑な表現なんだけれど、前者はたとえば栄養の消化吸収、呼吸、循環などの生命の維持に大きく関与する部分とされていて、後者は外界の知覚や思考、運動など、いわゆる「動物」的な、積極的な活動を担当する器官のことを呼ぶ。

 

次節で、大きく分類した内容を列記してみるけれど、いずれの器官も他の器官系に密接に関連することがあるから、それぞれの器官の働きの、どの側面に焦点を当てるかによっては、多少別の分類になることもある。この辺も、生命というか、生物の面白いところ、というか割り切れないところ、なのかもしれない。