#32 男女の違いとそのグラデーションについて

nishi01

男女の違いには、グラデーションがある

ちょうどこの文章を書いている時に、パリではオリンピックが開催されていて、女子種目に出ていたなんとか、っていう選手が「本当は女性じゃないんじゃないか」みたいな話題が盛り上がっているところだった。ということで、これもあまり専門ではないのだけれど、まあ、産婦人科としては、それなりに関わりがある部分なので、性分化異常っていう話をしてみようと思う。

性分化疾患っていうカテゴリーがあって、そんなに対象になる人数は多くないのだけれど、昔から、医学書には載っている、くらいの話題になっている。http://jspe.umin.jp/public/seibunka.html

ここで話をしているのは、いわゆる「身体的な性別」の話ね。最近はこれにジェンダーっていう「性自認」の話題が混入してきていて、性別違和の適合手術を受けたの、受けてないの、みたいな話が山盛りになっているのだけれど、それはまあ、なんつうか。うん。また別のところで議論をして欲しい。

最近はDSDって呼ばれているんだった。家族会なんてのもある。https://www.nexdsd.com/

産婦人科の仕事をしていると、出生証明書ってのを、書く。生まれてきた赤ちゃんが、いつ、どこで生まれてきて、母親は誰で、ってのを書くところに、性別の欄がある。

基本的には、赤ちゃんの性別を判定するのは外性器の形に基づいてってことになっていて、ほとんどの場合は特になんの問題も無い。のだけれど、まれに、外性器がどっちつかずの形の赤ちゃんが生まれてくる。昔は「半陰陽」なんて呼ばれた時代もあって、そういう単語で検索をかけてもらうと、論文もでてきたり、する。

もともと、男性器と女性器って、同じような組織が、微妙に変化して成立しているから、相同な構造をしている。例えば男性の陰嚢(ふくろ)の部分は、女性の大陰唇に該当するし、男性の竿の先っぽの部分と、女性の陰核の部分ってのも、同じ組織の変形、ってことになっている。そして、男性の尿道は、左右からくっついて一本になるのだけれど、これがうまいことくっつきそびれると、「尿道下裂」って先天異常の病態になる。これは、もともと女性器の形を、寄せてくるようにして、男性の構造をつくる関係上、そういうことになっているらしい。

厳密に…って厳密さをどこで求めるか、なんだけれど、性別を判定するのは、卵巣があるか、精巣があるか、っていうところになっていた…ような気がする。これも、実は左右にそれぞれ精巣と卵巣!なんていうこともあるらしいので、頭を抱えるような話になる。

昔むかし、わたしもいたいけな学童だったころに、やっぱり陸上女子の選手が「性別がちがったんじゃないか」みたいなニュースが流れてきていた。字幕だったか吹き替えで記者会見をやっているところに「わたしは、女性だったわよ」みたいな表現があって、うーん。なんつうか、って思ったんだったか。当時は、「ちょっとこっそりオシモを拝見したら、そんなのわかるんじゃないの?っていうか、それを誰かが確認したってこと?」くらいに思っていたのだけれど、案外難しい。

で。そういう「形成の異常」みたいな話が結構あるのだけれど、いやだってさ。ほら、性染色体ってのがあるじゃないですか。ねえ。ってことになるでしょ。女性はXXで、男性はXYなんだから。どこかから細胞とってきて、染色体確認したら良いんじゃないの?って話になる。

これが。性染色体の異常ってのは結構、ある。XO(X染色体がひとつあって、一つは欠損している)とか、XXYとか、XYYとかXXYYとか。Y染色体が多くなると、男性っぽさが強調されるとか、されないとか。びっくりするような話かもしれないけれど、ヒトの染色体としては、一番小さいので、まあ数が二つ、じゃなくても、そんなに大きな問題は起こさない、らしい。

じゃあ、染色体で調べたら、それで全部済むのか?っていうと、これまた面倒くさい話があって、「キメラ」っていう状態がある。なんらかの理由で、別の遺伝子セットを持っている細胞がそれぞれ寄り集まって一つの個体を形成している状態。実験室では、マウスに遺伝子を導入する、なんていうときに、こういう状態を作ったりすることがあるのだけれど、まれにヒトでもそういう現象が起きている可能性があるらしい。なので、どこからとってきた細胞のどの染色体がどのくらい多い、って話はともかくとして、それが全身、全部そうだ、って話になるかどうか、っていうのは、またちょっと別だったりする。この辺ややこしいよねえ。

もともとのヒトの設計図は女性が基本形で、それをY染色体に乗っている遺伝子が機能することで、男性に変化する、ってことなんだけれど、このY染色体とその遺伝子があるにもかかわらず、女性の体に育ってくる、っていう面倒くさい状況も、あったりする。精巣性女性化症候群とかって呼ばれていたんだけれど、最近はアンドロゲン不応症って呼ばれているんだったか。卵巣の位置に、精巣があって、外性器は女性型になっている。子宮はたしか無かったと思うのだけれど。だいたいは、思春期になるまで女性として育ってきて、それに違和感もなにも無いままだけれど、月経が発来しない、っていうところで病院を受診して…みたいな話が多い。

ちなみに、精巣は、温度が高いところにあると具合が悪くなる組織らしいので、こういう骨盤内に残った精巣とか、あるいは下がってきそびれた「停留精巣」っていう病態の場合には、早い段階でその部分を切除した方が良いらしい。なんでも、放置すると悪性腫瘍が出てくる、ってことになっている。

なんだか、当事者の経験とかを書いたノンフィクションとか、漫画とかがあったような気がして、探してみたんだけれど、ちょっと見当たらなかった。また皆さん、必要があれば探してみてください。