#29 月経血と月経痛について

nishi01

以下の質問をいただきました。

「月経血」と「血塊」って子宮内膜の剥離面からの出血で、内膜の破片が「血塊」なのでしょうか。

うーん。これねえ。実際のところはわからんのよ。どうわからないか、っていうと、脱落した子宮内膜が含まれているのは、たしかなんだけれど、その時にどのくらい出血が混入しているかってこと。

子宮内膜が剥離したときに、剥離したところから少量、出血があるんだろうと思うのだけれど、月経の真っ最中に中を覗いたひとが居ない…というか、覗いてみても出血でいっぱい、だし、どこから出ているの?ってのはちょっとわかりづらいかも。

一般的には、内膜の成分より出血が多いんじゃないかと思うし、ある程度の出血になれば、凝固するので、だいたいは、それを見ているんだろうと思うのだけれど。内膜の破片が凝血塊になる、っていうわけじゃなくて、一緒に出血みたいな顔して出てきて、一緒に固まって、一緒に塊が溶ける…けれど、量が多いと溶けそびれて、塊のままで出てくる、っていうことなんだろうと思っています。はい。

鎮痛剤が効く生理の人と、効かない生理の人では、何が違うのだろう。

剥離したときの痛みと、子宮が収縮するときの痛みが、月経時の発痛原因なのでしょうか。NSAIDsは前者に対して有効で、後者の痛みには効果がないのでしょうか。

月経の時の痛み、って一体なんだろうか、って話はいろいろあるのだけれど、ひとまず、内膜が剥離して出血するときに、内膜が壊れるので、そこから組織障害による伝達物質が分泌される。有名なのはプロスタグランディンって呼ばれるやつ。これが痛みの原因ってされている。

このプロスタグランディンっていうのは、本当にあちこちで働いていて、場合によっては血管を収縮させてみたり、あるいは弛緩させてみたりする。なんでそんなに働き方が違うの?って思うのだけれど、これが分泌されている、ってことは、つまり何らかの組織障害が発生している…ってことで、それは「どこかを怪我している」ってことだったりするから、血管を締めることで、その部分の出血を減らそう、っていうのは合理的な判断になる。

一方で、怪我したところに感染が起こったりすると、ちゃんと防衛用の白血球を送り込まなきゃならない。もともと怪我に対する対処と感染防御ってのは、だいたいほぼ同時に必要になる(怪我したときには感染が起こる)ので、お互いにそれぞれ乗り入れがあって、情報を提供したり反応したりしている。

で、このプロスタグランディンが分泌されると、それだけでも痛みの刺激になる。

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jhas/4/1/4_1_1/_pdf/-char/ja この辺に痛みのメカニズムと対処方法が書いてあるけれど、局所で分泌されたプロスタグランディンがそのまま痛みの刺激になっているのに加えて、プロスタグランディンが子宮筋を収縮させる。

筋肉の強い収縮は、それはそれでまた痛みの信号になって頭に伝わるし、筋肉の収縮がまたどこかの組織を痛めると、それもやっぱり痛い!って信号になる。プロスタグランディンは出血すると内膜からだけじゃなくて、子宮筋そのものからも分泌されるし、あちこちでこうした反応が連鎖することになるんだろうと思う。

痛み止め、ってなにしてるの?って話だけれど、このプロスタグランディンを作る酵素を、阻害する、っていうのがわりと有名な鎮痛剤の作用機序ってことになっている。だから、痛みが出てから、よりは、出ないうちに使う方が、鎮痛の効果が得られやすい。他にもいろいろ事情があって、痛み止めは、すっごく痛くなってから、よりは、痛くなり始めた時に使う方が少ない量でも効果が得られやすい。

だいたい、このあたりの痛み止めをNSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)って呼ぶのだけれど、https://www.jspc.gr.jp/igakusei/igakusei_keynsaids.html アセトアミノフェンは、実はちょっと働く場所が違う…らしい。よくわかってない、って書いてあるけれど、組織の局所で働くのではなくて、もうちょっと神経に関与して、痛みを取っている…?らしい。

神経の方で痛みをどうこう、っていうのは、これも鍼灸師さんたちの方が詳しいだろうけれど、ゲートコントロール理論ってのがあって。https://www.jstage.jst.go.jp/article/rigaku/40/8/40_KJ00009392335/_pdf 同じところの神経から、触覚の情報が流れていると、痛みの信号が通りづらくなる…から、痛みが軽減する、なんていうのもあったりする。この辺、結構不思議なことがいろいろ起こるのが痛みの領域、特に、慢性疼痛になると、なにがなんだかわからないことも結構あったりする。

漢方的な考え方で言うなら、「通ぜざれば即ち痛む」って言葉がある。血が流れない、あるいは気が流れない、っていう形で疎通が悪くなると、その部分は痛みが出てくる。子宮が収縮したら、局所的には血流は低下するし、その前に瘀血なんてのがあると、ますます血が巡りわるくなって、痛みが強く出る、ってことになるよねえ。

痛みの話で私がしばしば言うのは、ラグビーの選手が、試合中は平気だったのに、試合が終わった途端に「あイタタタ…」って言い始める、ってのがあったりする。調べてみると骨が折れていたり、ってことがあったりするって、そんなの嘘でしょ、折れた時に十分痛いでしょうに、って思ってたのだけれど、やっぱりそういう「痛みを先送りする」っていうのはあるらしい。

もちろん、それは決して良いことばかりじゃないんだろうと思うし、普段からそんな形で痛みの先送りをしていると、いろいろしっぺ返しが怖いのだけれど、まあそういう形で痛みを感じない、って方法もどこかにはメカニズムがあるので、不思議だなあ、ってことになっている。