#27 産後の骨盤矯正について

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骨盤矯正のような、身体の回復を図るような医療系?サービスがありますが、これは必須なのでしょうか。医学的に、出産を経験すると自然に元に復さないほどのダメージを受けるのでしょうか。

 

骨盤矯正の話、ねぇ。

いや、かなりややこしい話がいろいろあるんだと思う。

どこから話をしようか。

その前に骨盤矯正って、目的は、なんだと思う?いやさ、「歪んだ骨盤を整える」って唱えているわけだから、骨盤を整えことが目的って言うのかもしれないけれど、それは、「ホームセンターでドリルを探している人は、ドリルが欲しいんじゃなくて、適切な穴が欲しいんだ」って話があるわけでさ。骨盤矯正も、つまりは手段なわけでしょ。骨盤矯正、という「施術」を通して、何を得たいと思っているのか?

施術している…多くは無資格の人たちは、なにをどう考えているんだろうねえ…。いちばん金づるになるから?本当に産後のそういう施術が金づるになるのか、どうか、っていうと、だんだん心許なくなってきてるよねえ。

施術を受ける方はどうなんだろうねえ…骨盤を矯正して欲しい、って思うくらい不調の自覚があるんだろうか?それとも広告に踊らされているんだろうか…。

医学的な話をすると、ね。たぶん、「骨盤はゆがまない」って話なんかを整形外科の先生が言っているんですよ。「ゆがむって、一体どんなことを言ってるの?」的な話として。そして、骨盤の形って、わりとしっかり構成されているから、そんなものを外力かけて押したり引いたりしたところで、矯正なんてされっこないよねえ、って思っておられる人が多いんだろうな、って思う。もうさ。頭蓋骨の矢状縫合とか、その辺が「動くのか、動かないのか」っていう議論もあったりして、骨盤もなんだけれど、大陸移動説と、大陸不動説くらいの衝突している気がするんだよねえ。

実際のところ、マジレスすると、分娩時に、結構骨盤の形って変形している、って、すごく昔の論文に書いてあった。当時、お産している人の骨盤をレントゲンで撮影しながら、お産の進みを観察した先生がいらして。今なら胎児と母体の被曝が問題になるんだけれど、当時はまだ、そういう被曝に対する情報が十分じゃなかったから。ファッションでX線写真撮影してたりした時代があるのよ。たぶんその直後くらい?の論文。電子化されてなくてさ。大学の図書館で雑誌の複写をお願いしたんだったと思う。

で、仙骨とかの場所を基準にしても、恥骨の位置が変わってる。もともとの骨盤の形とか、お産の経過によっても違うんだけれど、っていうのが実態。産後に、どのくらいそこから「戻るのか」ってのは、ちょっと私の手元にはデータが無いのだけれど。

だから、骨盤を構成している骨の、相対的な距離は、変動する、っていうのは、まあ、古い論文にはちゃんと指摘してあるんだけれど、それを「ゆがんだ」と理解するのかどうか、ってことになるよねえ。だってさ。腕を曲げたら、上腕骨と尺骨橈骨の相対的な位置関係とか距離って、変動してるじゃんねえ。いちいち、それを「ゆがんだ」って呼ばないでしょ。って、そういう形で骨盤が動いている、ととらえているかどうか、って話になるし、お産の時以外に、それだけの相対的距離の変動を起こすのかどうか、って話になるよねえ。

一時期、肩甲骨はがし、っていう言葉が流行ったでしょ(私の師匠の増田明も、ボディートークのプログラムの中に、同じ名前のワークを持っているから、私も、流行のずいぶん前からその言葉を使ってた)。じゃあ、それは肩甲骨をはがすのか?っていうと、そうじゃない。「あたかも、肩甲骨をはがしているような」感じの体験、ってことだよ。

最近、私は骨のキワにある筋肉の緊張をなんとかしたい、と思っていろいろアプローチすることが増えたんだけれど、イメージとしては、圧力鍋で煮込んだ手羽元みたいな感じ。骨を残して、身がぽろっと剥がれるような。そんな感じにしようと思うのだけれど、微妙に骨のキワの筋肉が緊張していて、なんだか残ったような感じになる。これを「クズ肉」って呼んで「クズ肉をこそげ取るような」って説明して、セルフケアやってもらったりしてたんだけれど、さ。そしたら、世の中には「骨膜はがし」っていう施術のネーミングが出てきていた。だってねえ。「あなたのクズ肉こそげとります」って言うより、断然イメージが湧くよねえ。で。案の定、お医者さん系からマジレスされて、下火になってったけれど。あれも、実際に骨膜を剥がすってことをやっていたわけじゃなくて、あたかも、骨膜の部分まで剥がしたかのようなすっきり感が得られますっていう話でさ。実際に骨膜を剥がしたらスッキリじゃなくて、とっても痛いわけだし。

で。さ。

骨盤矯正も、たぶん、似たような話なんだと思うのよ。「あたかも骨盤を矯正してもらったかのような」。

ネーミング的にはわりとイメージが湧き起こるので、成功したんだろうと思う。医者に難癖つけられなかったなら。

まあ、そんな宣伝のうたい文句に踊らされてるとさ、ちょっとつらいよねえ。

骨盤についての情報発信のさ。発信源って、私が見ているところでは、二つくらい。ここはもう、ずいぶん前から骨盤の話をしていた。寺門琢己氏http://www.girlswave.com/ と、奥谷まゆみ氏 https://www.kiraku-kan.com/ あたりじゃないかなあ、って踏んでいる。で、その二人の骨盤についての理解と、指導方針って、もともとは野口整体にあるんだと思う。二人の文章はあちこちで本になっていたりするので、それを参照してもらったらとは思うのだけれど、野口整体の骨盤の話よりも具体的で、実践的、かつ細かく書いてある、っていう感想(昔本を読んだ当初)を持っている。

逆に言うと、こういう本が出てきているのがそれなりに前(私の手元には奥谷まゆみ氏の『新・お産本』ってのがあるけれど、奥付を見たら2009年の発行だった。寺門琢己氏も、2005年ころから、2000年代前半の著作が多い印象。https://www.gentosha.co.jp/book/detail/9784344406438/ )なので、逆に言うなら、なぜ今更?っていう感じが強い。

最近の骨盤矯正って看板だしている人たちが、いったいどこの何をどういう風に学んできたひとたちなのか、っていうのがわからないから、なんとも言えない部分がある。あるのだけれど、たぶん、寺門・奥谷両氏の理解ですら、(今の私の理解としては)野口整体の水準で言うなら「即物的」になりすぎている、っていうことじゃないか、という懸念があるし、流行に乗っている施術者がそれよりもきっちりと本来の意味合いでの骨盤をなんとか、っていうのができるとは思いづらいのよねえ…。

そもそも骨盤が歪むのか、あるいは、歪むってのは、どういう状態のことを言ってるのか、って話とさ。徒手矯正で、それは、修復、というか、「理想の状態」ってのを作ることができるのか、とかさ、あるいは、いったん理想の状態が作れたとして、それを、それなりの長期間にわたって維持できる効果を発揮できているのか、って話があるじゃない。

あ、間違えた。そもそもその「矯正」っていう関わりによって悪影響が起こらないのか?ってことだってある。

昔「ずんずん体操」?ズンズン運動?ってのをやってた女性がいらっしゃって。赤ちゃんへのかなり侵襲的な施術をしていたらしいのだけれど。2015年に業務上過失致死の判決が出ている。

私もそのニュースが出てから、彼女の著作とか主張のほんの一部だけしか見てないから、断言はしづらいのだけれど、彼女の文章に並んでいる主張だけ読んでいたら、そんなに危険なことやってるかどうか、ってのは、判定できる文章じゃなかった。むしろ、主張に賛成するか、反対するか、の個人的な賛否は多少あったけれど、それを流派の違いって言われても、それ以上に「あれは危険な思想」って遠ざける理由もなかったのよね。実際には、写真が流れてきていたんだけれど、乳児の頭を持ってかなり急激に回していたりとか、そういう施術をしていたらしい。

この一件のあとで、「あやしいやつは主張している文章がおかしい」ってわけじゃないんだ、って私は考えをあらためた。一見文章はまっとうであっても、あやしい人がいる、っていう。

だから、骨盤矯正、って言ってるひとたち、やってるひとたち、それぞれが、似たような言葉で、実はぜんぜん別のことをやっている可能性がある。あんな業界、国家資格もないし、統一の規格なんて無いから。なので、「世間一般によく見かける骨盤矯正というものについて」っていう話でいうなら、「品質の管理がされていないので、何にあたるかはバクチです」っていうのが一番正確なお返事になると思う。

で。

やっぱりそれでもニーズがある、っていう部分のひとつは、「骨盤が開いていたのが、締まると、痩せる」ってところじゃないかなあ、って思う。

そのあたりは、野口晴哉氏も書いていて、産後骨盤がもどり始めるまでは起き上がってはならない、って話をしている。ちゃんと骨盤が戻ってから体重をかけるようにすると、しっかりと骨盤が締まるのだ、と。(ただし、骨盤が締まるとつまり生殖器的には調子が良くなるので、うっかり次の妊娠が近づく、なんていう冗談みたいな話は、ある)加えて、骨盤が開き始めると太る傾向がある、ってことも書いているから、その辺が震源地なのかなあ、って思う。

私の産婦人科での経験で言うと、時々「骨盤輪不安定症」っていう診断をもらってくる人が居た。だいたいは、産後に歩くと恥骨が痛いとか、仙腸関節が痛いとか、そういう話だったし、そういう人に骨盤を固定、っていうと、サラシを巻くか、骨盤ベルトを巻くか、みたいな話になっていた。あれは、ゆがんでいた、って言えるのかどうかはわからないけれど、本当に歩けないとか、夜ベッドに横になるのが怖くて、もう、ソファーに座った状態で寝ているとか、そういう人たちがいらっしゃったのは事実。

じゃあ、お産が終わって、ひとまずそういう痛みがある人たちはともかくとして、痛みがあるわけじゃない、っていう人たちに骨盤の矯正が必要なのか?って部分で言うなら。

うーん。わからないよねえ。

特に現代人、歩かなくなったから。でこぼこ道なんか、ぜんぜん無いし。そういう意味では骨盤の動きとか、歩いている間に自然と調整されてきたとか、あるいは歩いてしっかり筋肉がつくことと、動きの中で調整されたものが支えられている、っていうような本来の状況とは、だいぶ違ってしまっている可能性があるよねえ。

最近は猛暑になってさ。毎日クーラーが無いと本当に熱中症が心配な日々だけれど、これをさ。「昔はクーラーなんて無くて過ごせてたんだから!」って今どき言っても「なに言ってるの?」って言われて終わりでしょ。そもそもの平均気温も、最高気温も、熱帯夜や猛暑日の日数も違うんだからさ。

似たような変化が、私たちの身体に起こっていないとも言えないから、お産の時の影響が、無視できないくらいの大きさで残っている可能性も、ある。あるいは、産後の子育てや自分の生活を手伝ってくれる人手が足りなくて、どうしても安静にしていられなかった、なんてことだって、あるでしょう。そういう時に、多少の手助けとか、ケアが必要になってくることもあると思うから、場合によっては、信頼できる施術者に相談してね、ってことになる。

信頼できる施術者はどうやって見つけたら良いのか?っていうのは、本当に難しい話なので、こっそり辻本先生にでも聞いてみてください。