#24 妊娠時の体調変化のメカニズムと、注意点

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辻本先生から、「妊娠中の体調のことについて書いて欲しい」っていうリクエストを頂戴した。

つわりの話とか、妊娠中毒症の話は別の項目で書いたので、まあ、あとはいわゆる「マイナートラブル」って呼ばれるものと、それから、「切迫流産」「切迫早産」なんて言われるものがメインになるんだろうかしら。

マイナートラブル、って呼び方も失礼な話で、これはどこか、「不定愁訴」に似ている気がする。マイナーじゃないトラブルって言うのは、つまり、赤ちゃんが早くに出てきてしまう、とか、母体になにか、大変なことが起こっている、っていう、いのちに関わる系のトラブルになるから、まあ、それに比べてしまえば、「マイナー」って呼ばれても仕方ないか、ってなるけれど。

妊娠は病気じゃない、っていわれるけれど、妊娠している間、身体はずいぶん変化している。循環血漿量はだいたい1.5倍くらいにまで増えるし、ふたり分…というほど、胎児は「いちにんまえ」ではないけれど、それでも「ふたりぶん」の代謝産物を排出しなければならないし、酸素も必要だし。そのうえ、お腹の中でどんどん大きくなって場所を占めてくるし。

子宮が大きくなることで、いろいろな症状が出てくる。頻尿とか、腹部膨満感とか、便秘とか(便秘なんかは、子宮の物理的な存在だけじゃなくて、プロゲステロンの分泌によって、腸管蠕動が低下するから、その影響もある)。あるいは、横隔膜が押し上げられるので、肺活量…には変化は出ないけれど、残気量の部分は変化する。し、二酸化炭素の排出量が増えるから、呼吸回数は多くなる上、胸式呼吸になる。ここで肩こりなんかがあって…とかっていうと、結構呼吸がしんどくなるだろうし、ストレスでみぞおちのところを硬くしていると、ただでさえ子宮があって、横隔膜が下がらない、っていってるのに、さらに呼吸が浅くなる、なんていうことも、ある。

子宮が前に突き出てくるから、腰の反りも強くしないとバランスがわるい、ってなことで、腰に負担がかかりやすくなる…ってこともあるし、妊娠中は、お産に向けて、リラキシンっていうホルモンが分泌されているらしい。このホルモンの影響で、骨格筋や靱帯がすこし柔らかくなる?というか、緩んでくるらしい。骨と骨との関係が、微妙に緩くなるから、アソビが増える、といえば聞こえが良いのだけれど、きっちり乗っていないところは、筋肉が無理してつじつまをあわせたりしていて、そういう筋肉の負担がさらに大きくなったりする。

そりゃ、身体しんどくなるよ、ねえ。

子宮の中で、赤ちゃんが出口(子宮口)近くに下がってくると、それなりの刺激になって、子宮の口が少しずつ開いてきたり、あるいは、同じ刺激が、子宮の収縮を引き起こすきっかけになったりする。これが、妊娠の初期から出てくると、「切迫流産」って呼ぶ。

その時期に子宮口が開いてくる、なんていうことはあまり無いけれど、子宮が収縮して、少しかたくなる(「お腹が張る」って表現する…のだけれど、はじめての妊娠だと、ちょっとわかりづらい人もいたりする。お腹張ってるでしょう?っていうのがわかるようになるまで、しばらくかかるひともいて、自覚が無いから無理したりすることもあったり…)のと、それから出血があったりする。

このお腹が張って、痛みがあったりなかったりして、出血する状態を「切迫流産」って呼ぶ。

切迫しているのだから、うっかりすると、そのまま流産になるのか?って思うけれど、意外と流産につながるひとは少なくて、ほとんどの場合は、安静にしてもらったり、お腹の張り止めの薬をつかったり(妊娠16週くらいから、ウテメリンⓇとか塩酸リトドリンとかって呼ばれる薬が使えることになっている。これは神経の刺激をすることで、子宮収縮を抑制する効果がある)する。

私がお世話になって、いろいろお産のことを教えて頂いた開業医の先生は、妊娠中の出血を起こす原因を3つ挙げていらっしゃった。

一つは、車に長時間乗って、揺られている状態が続いたりしたとき。

一つは、ショッピングセンターみたいな、うるさい場所に出入りしていたとき。

一つは、夫婦げんかしたとき。

 

だから、夫婦げんかは禁止…って言っておられたし、車は、予定日が近づくと、今度はそのお腹が張ってきて、出血しやすくなるのを逆手に取って、ドライブに行ってきてもらう。今日はあっちに2時間、とか、今度はあそこまで往復してくるように、とか。

ショッピングセンターのことは、私はわからないのだけれど、結構お腹の中の胎児、って、物事を理解しているフシがあって、お母さんの気持ちが余所にばかり行っていると、「お忘れになっておられません?」ってな感じで、出血したりする。夫婦げんかの時なんかも、きっと、「今、けんかしているときじゃないよね?」ってメッセージなんだろうと思う。

妊娠中の生活は、ちゃんと、子どもを育てつつあるのだ、という自覚をもって、胎児を中心とした生活にするべきだ、って野口整体の野口先生は書いている。なかなか、それが実現できない世の中だから、うまいこと両立したい、とは思うのだけれど、できることなら、妊娠に集中してもらいたいと思う。その上で、しっかり散歩するべし、って書いておられた。「買い物や自分の興味を優先させるのではなく、自分の身体に気持ちを向けた状態で歩くべし」

って書いておられたから、本当に散歩のための散歩をして欲しい。別の先生の本によると、妊婦はしっかり歩くべし、って書いてあって。だいたい1日3時間くらいって。頑張って歩いてもらうと、お産の時に生まれてくるまでの時間が短くなる。

それから、目の使いすぎにはくれぐれも注意が必要。これが頭の緊張から骨盤の緊張を引き起こしたりする。妊娠中に、ある程度産道がまっすぐになっていて、目の緊張がなければ、わりとお産はスムーズになる、気がする。

あとは、甘いものに注意。だいたい、現代の果物は甘すぎるよねえ。砂糖と果物を禁止すると、ちょうど良い感じになるんだろうな、と思う。なかなか続けるのも大変だけれど。

骨盤が緩んできて、開きがちになったりしているひとは、骨盤のところにサラシを巻くのが良いのだけれど、これを自分で巻くのが難しいひともあるから、骨盤ベルト、ってのを使ってもらったら良い。良いんだけれど、これもいろいろあって。ゴムを使っていないものを選んで欲しい。ゴム紐の欠点や問題についてはまた別の話になるんだけれど。

腹帯(はらおび)どうしようか、って話があるんだけれど、日本人、わりとお腹を冷やしやすいから…って話じゃなくて、骨盤が緩んできて、子宮を支えづらくなるので、その支えの補助、っていう形でサラシを使ってもらいたい。腹帯もゴムのものはできたらやめてほしい。アメリカで修行してきた先生は、「アメリカではだれも腹帯まいてなかった」って日本でも腹帯を禁止したりしてたみたいで、それはそれで一理あるのかもしれないけれど、アメリカの白人と、日本人とはだいぶ骨格も妊娠中の筋肉の緩み具合も違うから、いちがいに真似をして全部それで良い、ってわけじゃ、ない。

このサラシとか骨盤ベルトみたいなもので骨盤を固定する、あるいは骨盤を「締める」と、子宮の位置が結構上に戻ってくれて、お腹の張りも軽減することがある。残念ながら、ほら、お腹の張りが減ったでしょ、って実演しても、わからない妊婦さんも出てきておられるので、本当にどうしようか、って思うところではあるのだけれど。

某骨盤ベルトの団体があって、そこが「切迫流産や切迫早産に効く」って言ってるのだけれど、たしかに、お腹がふんわりしてくるので、そういう意味で骨盤を固定しておくのは有効なんだろうな、って思う。締めるコツがあるから、はじめての時は、知っている人に教えてもらって欲しいけれど。

某骨盤ベルトの団体は、その後、「お産もスムーズに進む!」って言ってる。なんか万能薬みたいな扱いだよねえ。切迫早産に有効、ってのは、わかるとしようよ。じゃあさ。赤ちゃんの頭が下がってくるのを、これで、予防するわけでしょ。お産はさ。赤ちゃんの頭が、下がってくるんだぜ…?どうしてそれが一緒の機構で「良くなる」って言えるんだい?って思うのだけれど…。意外と説明は簡単だったのよね。

お産の時には、赤ちゃんが、きっちり顎を引いてうつむきになる(第一回旋)のだけれど、これが甘いと、お産がちょっと大変になる。で、骨盤がきっちり締まっていると、この第一回旋をしっかりしないままだと頭が骨盤の中に入って来られないのだけれど、骨盤が緩んでいると、第一回旋が緩いままで頭が下がってきてしまう。だから、入口をすこし狭くして、「あなたがきっちりお産のための体勢になるまでは通しませんぜ」っていうのを、このベルト(とかサラシとか)がやってるんだ、って思えば、なるほど、お産にも影響はあるのよねえ。

このサラシとか骨盤ベルトとか、お腹の張りだとか、骨盤の締まりだとか、っていうのに加えて、腰痛の予防になったりもする。なので、お薦めなんだけれど、ベルトとかサラシとかしていると、ズボンが履きづらいのよねえ。その辺もちょっと悩みになったりする。

頑張って毎日散歩して、食事は砂糖と果物に気をつけて、で、目をしっかり休ませて…ってしていると、スッキリしてくる。どうスッキリするのか?って聞かれても説明が難しいけれど、うまいことこれが進んでいるひとは、妊婦健診にいらっしゃったときに、顔がスッキリしておられた。で、その顔みて「だいじょうぶ」とか「もうちょっと…」とかってやってた。

ちゃんと歩いていると、陣痛がきたら、しっかりお産が進むようになる。歩いていると、骨盤が少しずつ動いて、良い場所になるんだろうと思うのだけれど、ここをサラシできっちり支えていると、さらに良い感じになってくる、気がする。で、そんな状態をつくって、妊娠中にお産の準備をどんどん進めていくのよ。そうすれば、今度、陣痛がきたら、スルッと産まれる。スルッと産まれたら、ちゃんと体力的な余裕を持って、育児が始められるでしょ。

他のマイナートラブルでは、頻尿とか、便秘とかあるんだけれど、散歩するときに、時々左脚を大きく前に出すんだって。これやってると、便秘は解消する、って野口整体の本には書いてあった。頻尿はねえ。どうしてもある程度は近くなるよねえ。

あとは帯下…?これも増えるのが普通だから。日本は湿気が強いので、うまいこと乾燥させてほしい。一緒に仕事していた助産師さんは「ドライヤーの冷風をあてるねん」って説明しておられた。誰にも見られない場所で、って。

逆子はねえ。逆子は、本当は妊娠の初期から、きっちり骨盤固定してもらうと、わりと防げるんじゃないか、って思う。腰椎の3番のところに命門っていうツボがあるのだけれど、このあたりが緊張していて、硬いと逆子のままになりやすい気がする。なので、ここをしっかり動かすような体操をして、骨盤を固定して、っていうので、やっていると、戻るひとが多かったので、参考にしてほしい。