ヤンデル先生が、「どこからが病気なのか」みたいな話を書いておられた。(市原真『どこからが病気なの?』ちくまプリマー新書 https://www.chikumashobo.co.jp/product/9784480683663/ )
その本の中には、病気ってのは、いろいろある、ってことから書いてあったように記憶しているのだけれど、最終的には、「医者が病気と診断したら、病気」みたいな話になっていた。
これも、また、難しい。
そもそも、病気と一言で言ってもいろいろあるわけで。
まずはそのあたりの整理からしたい、の、だけれども。
産婦人科の病気ではないのだけれど、健康診断では、たいてい、血圧をはかる。
血圧が高いと、「高血圧」って病気、ってことになる。なるのだけれど。
「じぶんは何も自覚症状ないし、今ぜんぜん困っているわけでもない。そもそも血圧なんて、はかるから、高いだの、低いだの、って大騒ぎすることになるわけで。勝手に人に病気を押し付けやがって!」って。
そんな勢いで、血圧高い、って指摘に反論する人もいる。
血糖値が高いよね?って声にも、似たような反論ができることもあって。健康診断をわざわざやっているのは、むしろ、そういう「自覚症状はないけれど、放置しておくといずれ面倒くさいことになりかねない」ことが起こってないかどうか、をスクリーニングすること、だから。ねぇ?って思うのだけれど。
がん検診だと、もう少し皆さん物わかり良くお話を聞いてくださるのは、がんが怖い病気で、放置しておくと死ぬ、って話が上手に浸透したから、なんだろうと思うけれど。
看護学生さんなんか、自分たちで「早期発見、早期治療」なんて言葉を覚えて、使ってくる。
予防ができる病気なら、それにこしたことはない、のかも知れないし、早期発見、早期治療ってのは、いわば二次予防なので、とても大事。
…なのかも知れないけれど、これも、「ものによる」らしい。
福島あたりで、地震があったときに、原発が被災して、放射能漏れを起こしたことがあったけれど。
この地域で、甲状腺のエコー検査を「全住民」に、長いことやってきた先生がいらっしゃる。
とても大変なお仕事の量だっただろうと思うのだけれど、実は、甲状腺癌は、早期発見して、治療を早めに始めても、いろいろ自覚症状が出てきたところで調べて、癌がある!ってなってから治療をしても、生存率に差がない、らしい。
早期治療した人たちのほうが、治療始めてから亡くなるまでの時間は長いのだけれど。(亡くなるタイミングが同じなら、ごく普通の計算ですよね?)
だったら、「あなた、癌があるかも知れません」なんてうっかり説明されて、心配してみたりするより、知らぬが仏、ではなかろうか、って思う。
こういうのを「過剰診断」とか、って呼ぶのだけれど。
過剰診断していて、手術して、そのあとで、癌かと思って手術しましたけど、癌はありませんでした、って話も、ちょくちょくある。(こないだそれで、胃を切除されたひとが裁判していた。https://www.medsafe.net/precedent/hanketsu_0_229.html )
産婦人科の話で言うと、赤ちゃんの様子が悪そうなので、大急ぎで帝王切開します!って時がある。
生まれてきた赤ちゃんは?っていうと、ありがたいことに、意外と元気だったりする。
じゃあ、元気だったら緊急手術しなくても良かったんだろうか?ってなると、本当に悩ましい。
でも、元気で良かったねえ、って言えるのは、頑張ってみて、その結果「赤ちゃんはたすからなかった」
となるよりは良かったでしょう、って思う。
未病、って話題が一時期盛り上がったけれど、じゃあ、未病ってなんだい?ってのに、一言で定義しようと思っても、難しいのよね。
未病を、「自覚症状はないけれど、検査では異常が出ている状態」ってするなら、高血圧とか、糖尿病の初期とか、あるいはごく初期の癌とか、みんな、自覚症状がなかったりする。
病名つくのなら、已病じゃないの?ってなるよねぇ。
逆に、「自覚症状的には不調があるのだけれど、検査では異常がない、っていわれる」って、それを不定愁訴って呼ぶわけで。
未病とは、不定愁訴だったのか!ってのも、そりゃ違うでしょう。
検査異常も、自覚症状も無いのに、病気の気配だけがあるのが未病?そんなの、どうやって見つけるわけ?
ってことで、未病学会(https://www.j-mibyou.or.jp/ )なんてのが、わりと鳴り物入りで立ち上がったのだけれど、その後泣かず飛ばずになってしまっている。
もともと未病を治す、ってのは、漢方の古典にある言葉だから、東洋医学とか、漢方とか、鍼灸ががんばるべきところだったのかも知れないけれど、すでに頑張りどころも失った様子になってた。
総論としての未病、ってのは、難しいのだと思う。だって病気ってその始まりが様々に違うから。
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